ノルマなし、数字による管理を廃止した理由
これまで、朝礼・終礼は業務報告をするだけの退屈な時間でしたが、お互いを知るための大切な時間へと変わりました。従業員に、就業中でいちばん楽しくて充実した時間はいつかを問うと、「感謝の時間」という声が多く上がります。
今では60秒では全然足りません。たった60秒では、日々思いつく感謝の出来事が多すぎて時間が足りなくなりました。
従業員に感謝を日々伝えるようになると、従業員からも感謝の言葉をもらう機会が増えていきました。飯田屋は、日々の些細な出来事に感謝し、お互いを大切に想いあえる組織でありたいと願います。
仲間が大切に思うものをみんなで大切にする――それができれば、何が起きても立ち向かい、助けあえる強い組織ができるはずです。
■経営方針はまさかの「売るな」
お客様は大切です。これを否定する人はいないでしょう。
でも、僕は大切にしているつもりで、実はまったくできていませんでした。表では「お客様は大切だ」と言いながら、裏ではいかに多くの商品を売り、大きな売上をつくるかだけを考えてきました。売上ばかりに執着していたのです。
だから、心からお客様を大切にしたいと思った従業員たちは僕から離れていきました。どの業界でも、売上目標達成のためにノルマを設けるのが一般的です。たしかにノルマは、売上を上げるための手段としては優れています。
しかし、優れた手段であっても、それ自体が目的ではありません。それなのに、いつの間にかノルマそのものが目的となっている企業が少なくないのです。
すると、何が起こるでしょうか。
従業員たちはノルマを達成するために、どんな手段もいとわなくなります。お客様が求めるものより高価な商品を売りたくなるかもしれません。お客様にとって不必要なものや、お客様が使いこなせないような商品でも売ろうとするでしょう。接客が必要な商品よりも、簡単に売れる話題の商品だけを仕入れるかもしれません。
さらに売上成績の悪い仲間を、能力のない存在と決めつけるかもしれません。
ノルマを達成すれば喜び、ノルマを達成できなければ落ち込みます。ついには、評価の基準がすべて数字にあるように感じてしまうでしょう。
すると、優しさに秀でた「優秀」な人でも、優秀でいられなくなります。「いい人」がいい人のままでいられなくなるほど、数字は絶対的な拘束力を持っています。
僕は今まで、飯田屋の誰よりも数字の呪縛に囚われてきました。だから、数字にのめり込んでしまうことの恐ろしさを、身をもって知っています。
心からお客様を大切にするには、まず数字の呪縛から逃れなければなりません。「売上を気にするな」と伝えるだけでは、人は数字の呪縛から自由になれないのです。
そこで思い切って、「ノルマや売上目標といった数字の管理を今後一切廃止する」と従業員に伝えました。