(※写真はイメージです/PIXTA)

OECDの調査によると、日本でうつ状態にある人は2013年から2020年にかけて2.2倍に増加しています。しかし、精神医療現場には「短時間の画一的な診療」という課題が根強い状況。疑問を抱いた医療法人瑞枝会クリニック院長・小椋哲氏は、積極的に患者の抱える問題に介入する「対人援助」を意識してきました。ここでは同氏が、患者に合わせた診療方法について解説します。

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”おいしい”存在になってしまう…「治す気がない患者」

精神科ユーザーは、完治が見込める人ばかりではないことは、多くの精神科医が感じているはずです。うつ病であっても、職場環境が悪いことが原因で発症した人なら異動だけで治ることもありますが、発症につながった環境から抜け出せないような人は、うつ病のない人生を送ることが難しいケースもあります。

 

例えば、産後うつになった女性が、2人目、3人目と次々に出産してしまうようなパターンでは、1人目の産後うつが治りきらないうちに次の出産を迎えて、さらに厳しい状況に置かれることになります。

 

日々の育児だけで疲弊しているところに、経済的な理由でパートに出始めたり、社会的な要請でPTAや地域活動を始めたりもするので、すぐには解消できないボトルネックがどんどん積み上がっていくこともあります。

 

こうした場合、本来なら根本的な負担を減らすか、完璧主義を捨てて手抜きや息抜きをしながら省エネでやっていくことを患者に身につけてもらわないと、症状の改善は難しいものです。本当は全部やめてしまい、3ヵ月ほど入院すれば良くなるのでしょうが、また元の生活に戻れば同じ状態になってしまいます。

 

患者本人も諦めていて、「治す」というニーズをもっていないことも少なくありません。

 

その人なりの非常にゆっくりとしたペースで治っていくこともあれば、もう生きているだけで精いっぱいの状態で「一緒に治しましょう」という姿勢で接するとそれがプレッシャーに感じてしまう場合もあります。

 

こうした患者に対しては、精神科医が力になれることがあまりないため、多くの精神科では「同じお薬を出しておきますね」という対応になっているのです。

 

こうした患者の診察を短く終わらせて、その分をほかの患者の時間に充てているような状況では、このような患者は経営効率の観点では”おいしい”患者になっているかもしれません。

 

しかしこのタイプの患者にとって、精神科医は自分の病気に対する十分な理解と知識をもったうえで話を聞いてくれる唯一の存在で、最後の一人かもしれません。

 

専門知識をもたない人には気づかないような小さな変化を見つけてくれたり、精神疾患という目に見えない荷物を背負って頑張っていることを認めてくれる存在でもあります。臨床心理学では、このような存在をウィットネス(witness:目撃者、立会人、証人)と呼びます。

 

精神科医はこうした人たちのウィットネスとなることで、その人の人生に関わっていくことが、提供するべき対人援助の一つとなります。当院ではこうした患者の多くは、予約料を必要としない10分枠を利用します。

 

その10分を最大限活用して、その人が一生懸命生きていることを認め、たとえ目に見える治療効果が期待できなくても、診察室を出てからの毎日を生きていくためのサポートをする。これも精神医療の重要な役割です。

次ページ「質の良いサポート」ができるのはどんな精神科医?

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    ※本連載は、小椋哲氏の著書『医師を疲弊させない!精神医療革命』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

    医師を疲弊させない!精神医療革命

    医師を疲弊させない!精神医療革命

    小椋 哲

    幻冬舎メディアコンサルティング

    現在の精神医療は効率重視で、回転率を上げるために、5分程度の診療を行っている医師が多くいます。 一方で、高い志をもって最適な診療を実現しようとする医師は、診療報酬が追加できない“サービス診療"を行っています。 こ…

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