(※画像はイメージです/PIXTA)

お客様を喜ばせようと必死な一方で、従業員にはパワハラ状態の売上至上主義を貫いていたという飯田屋6代目店主。自分は正しいと信じて疑わなかった6代目店主はどうやって自分の失敗に気づくことができたのか。※本連載は飯田結太氏の著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)を抜粋し、再編集したものです。

経営者の仕事は従業員の幸せのために働くこと

■三人目の神様との出会い

 

もともと、知らないことを学ぶのが好きでした。売上につなげようと、マーケティング系セミナーには積極的に参加しました。SNS集客、販促、POP、輸出、多店舗化など多くのビジネスセミナーに頻繁に足を運びました。

 

ある日、ある勉強会への参加を母から強くすすめられました。「人と経営研究所」の大久保寛司さんの勉強会でした。「教えないで、気づきに導くプロ」として全国に熱烈なファンを持ち、いい会社を育てる組織風土改革の第一人者として有名だといいます。

 

しかし、僕は世間で言われる「いい会社」などきれいごとだと思っていました。いい会社の条件とは絶対的な売上の大きさだと考え、そのために全力を尽くしていました。

 

誰よりも料理道具を勉強して、お客様に喜んでもらえる接客をこなし、誰よりも売上をつくっているというおごりが…。(※写真はイメージです/PIXTA)
誰よりも料理道具を勉強して、お客様に喜んでもらえる接客をこなし、誰よりも売上をつくっているというおごりが…。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

そんな僕に、母は「あなたに必要なのはこれだから!」と、半ば強引に申し込んでしまったのです。母は昔からこれと思ったら、一直線に進むようなところがあります。そうなってしまうと、断ることのほうがたいへんです。

 

渋々、気が進まないままに会場に向かいました。ところが、この日の大久保さんとの出会いが僕の運命を大きく変えていくのでした。

 

「経営者の仕事とは、なんだと思いますか?」

 

穏やかな表情と鋭い眼光を持った大久保さんは、参加者を見渡しながら問い掛けました。心の中で、はっきりと「売上を上げ、利益を守り、会社を潰さないことに決まってるじゃないか」と答えました。

 

さらに大久保さんは「人は何のために働くのでしょうか?」と問います。

 

僕はまた心の中で「お金でしょ? それと休みが多くとれて、ほかの会社よりいい条件かどうかだってば!」と答えます。

 

しかし、大久保さんの答えはまったく違ったのです。

 

大久保さんは穏やかな声で言います。

 

「人が働くのは、自分と家族の幸せのためです。経営者の仕事とは、従業員の幸せのために働くことです」

 

大久保さんはさらに続けます。

 

「ルールや賃金など外的要素を変えても、従業員が変わるのは一瞬です。仕組みをつくれば表面上はとりつくろえても、人の本質は変わりません。人は、人を変えることはできません。ただし、人が自ら変わる環境をつくることはできます。経営者の仕事とは、その人がその人自身の力で変わる取り組みを全力で支援すること。その人の中にあるいいもの、光り輝くものを引き出してあげることです。そのためには、経営者やリーダーは人格を磨き、信頼できる人にならなければなりません」

 

大きな衝撃を受けました。僕の考えとまったく違うものだったからです。

 

僕は会社を潰さないために売上を上げ、利益を守り、会社の知名度向上にも尽くしてきました。それなのに、従業員たちは幸せではなかったというのです。

 

正直、まったく理解できませんでした。そんな僕に、大久保さんは言いました。

 

「あなたは、まだ自分に指を向けていない」

 

まったく意味がわかりません。ただ、その言葉はずっと僕の心に引っ掛かり続けました。

 

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浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

飯田 結太

プレジデント社

効率度外視の「売らない」経営が廃業寸前の老舗を人気店に変えた。 ノルマなし。売上目標なし。営業方針はまさかの「売るな」──型破りの経営で店舗の売上は急拡大、ECサイトもアマゾンをしのぐ販売数を達成。 廃業の危機に…

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