(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、ニッセイ基礎研究所が2021年10月1日に公開したレポートを転載したものです。

2―求められる長期で続けるブレない姿勢

岸田新政権の支援に期待がかかるところだが、スタートアップの創出や育成、そしてスタートアップ・エコシステムの構築に向けた取り組みは、短期で成果が出るものではない。例えば、研究開発型のスタートアップのビジネスが立ち上がるまでには長い期間と多くの資金が必要になる。研究開発や資金調達に頓挫し、事業が立ち行かなくなるケースも多い。科学技術立国にふさわしい、研究開発型のスタートアップが次々と生まれ、成長するようなスタートアップ・エコシステムを作り上げようとするのであれば、長期的な視点で支援を継続する必要がある。まだ新型コロナウイルスが完全に終息したわけではなく、まだまだ霧が晴れない状況が続くからこそ、長期で支援を続けるブレない姿勢が求められる。

 

一方、コロナ禍においても、日本のスタートアップをめぐる環境が着実に前進していることは、岸田新政権にとっても追い風となる。一時は急落した株価は、足もと不安定さを見せているものの依然として高値圏にあり、新規上場数も堅調に推移している。スタートアップの資金調達金額は底堅く推移しており、大型の資金調達も見られる。ここ数年でスタートアップとの連携や資本提携を増やしてきた大企業の姿勢も大きくは変わっていないように見える。

 

さらに、海外の投資家が日本のスタートアップに投資する事例も増えてきた。例えば、バイオ素材の開発を手掛けるSpiber(山形県鶴岡市)は、この9月に米国のカーライルやフィデリティ、英国のベイリー・ギフォード等から大型の資金調達を行うことを発表した。また、海外の有力企業に買収されるスタートアップも現れた。米決済大手ペイパル・ホールディングスは、後払いサービスを手掛けるPaidy(東京都港区)を3,000億円で買収することを発表した。長らく、内外の有力企業が買収したいと思うようなスタートアップが少ない、EXITがIPOに偏重しているなどと言われてきたが、米国の大手IT企業から3,000億円もの評価額で買収される企業が出てきたことは、非常に画期的なことである。

 

そして、米調査会社のスタートアップ・ゲノムがこの9月に発表したスタートアップ・エコシステムランキングでは、東京が9位にランクインした[図表2]。昨年の15位から順位を上げており、海外における日本の認知度、注目度が高まっていることの表れと言えよう。

 

[図表2]スタートアップ・エコシステムランキング(2021年)

 

スタートアップが育たないと言われてきた日本の環境は、ここ数年で大きく改善してきた。岸田新政権の成長戦略、支援策によって、日本のスタートアップ・エコシステムは更に飛躍を遂げることができるのか、今後の展開に期待したい。

 

 

中村 洋介

ニッセイ基礎研究所

 

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