(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、ニッセイ基礎研究所が2021年10月5日に公開したレポートを転載したものです。

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1―はじめに

新型コロナウイルス感染症は、9月後半以降、第5波の新規陽性者数が急速に減少した。重症者数も減少し、各地での医療の逼迫も緩和された。その要因として、専門家からは、一般市民の感染対策強化、人流-特に夜間の滞留人口減少、ワクチン接種率の向上などが挙げられている。ただ、冬には第6波の襲来も懸念されるため、警戒と対策を続けるべきとの指摘もある。



そんななか8月末に、厚生労働省は、2020年度の概算医療費を公表した。そこには、コロナ禍が医療に与えた影響が、医療費データとして、いくつかの点で表れている。

 「令和2年度 医療費の動向」(厚生労働省, 令和3年8月31日)

 

本稿では、その医療費データをもとに、コロナ禍の影響をみていくこととしたい。 

※ 本稿では、注記1の資料に掲載のデータを図示して、医療費の傾向を把握していくこととしたい。

2―年度ごとの医療費推移

まず、年度ごとの医療費の推移からみていくこととしよう。

 

1概算医療費により、医療費の動向を迅速に把握できる

 

最初に、概算医療費について、ポイントをおさえておく。概算医療費は、医療機関などを受診して病気やけがの治療にかかった医療費である国民医療費と、全く同じというわけではない。国民医療費のうち、労災保険や、患者が全額自己負担したケースを除いた金額を表すからだ。ただし、概算医療費は、国民医療費の約98%に相当するとされており、国民医療費の動向を概ね表しているといえる。



概算医療費は、医療費の動向を迅速に把握するために、毎月、医療機関からの診療報酬の請求(いわゆるレセプト)に基づいて、医療保険・公費負担医療分の医療費を、厚生労働省が集計・公表している。

 

22020年度の概算医療費は、1954年の公表開始以来最大の減少となった

 

それでは、概算医療費は2020年度まで、どのように推移してきたのか。それを示すのが、つぎの図表だ。2020年度の概算医療費は42.2兆円で、対前年度マイナス1.4兆円(‐3.2%)となった。国民医療費の年次推移と比べると、減少額、減少率とも、1954年以降で過去最大となった。

 

[図表1]年度ごとの医療費の推移
[図表1]年度ごとの医療費の推移

 

3医療費減少の要因として、 (1)患者の受診控え、 (2)病気そのものの減少 が考えられる

 

2020年度に医療費が減少した理由として、コロナ禍が背景にあることがうかがえる。医療費への影響の仕方としては、大きく2つの経路が考えられる。1つは、医療機関でのコロナ感染を恐れて、軽症の患者が受診を控えたこと。これには、本来受診の必要がない人の過剰受診が適正化されたという側面もあっただろうが、本当は治療が必要な患者が受診を遅らせることで病状を悪化させるリスクもあったものとみられる。もう1つは、人々がコロナの感染対策として、石鹸での手洗いや、マスク着用などを徹底した結果、インフルエンザ等の他の感染症の拡大が防止できて、病気そのものが減少したこと、である。この減少は、日常の公衆衛生の対策の重要性を示すものといえる。



ただし、残念ながら、今回、厚生労働省から公表されたデータでは、そうした要因ごとに減少の内訳をみることはできない。今後、コロナ禍での医療減少要因の分析が進むことが望まれる。

 

次ページ3―2020年度医療費減少の特徴

本記事記載のデータは各種の情報源からニッセイ基礎研究所が入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本記事は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

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