『信じてあげないと本当に自閉症になってしまう』
あらゆることに過敏な息子さんを連れて、出かけるだけでもものすごい労力が必要だったと話す坂下さん。
それでも息子のためと思って病院へ連れて行ったという。
「そこでは、医師と話す前に、療育担当の女性がお話を聞いてくれました。療育担当の方ならきっとわかってくれる、そう期待は膨らんでいました。それなのに、女性から返ってきた言葉は予想していたものとは大きく違っていました」
その療育担当の女性は坂下さんの話を聞いてこう言ったという。
『息子さんは、確かに発達がゆっくりなのかもしれませんね。でも、だからと言って発達障害だと判断するのは早いです。まだ1歳ですよ。ママが発達障害だと思い込んで息子さんと接していると、本当にだんだんとそうなってしまうものなんです。まずは息子さんとゆっくり向き合ってみてくださいね』
「毎日毎日、息子とは最大限の時間を使って向き合ってきました。誰に何と言われようと私が一番息子のことは分かっているはず。それなのに、夫も医師も、あの女性も、誰も私の言葉を受け取ってくれませんでした。つらくて、私はその医療センターの医師に診てもらう前に帰りました」
自閉症の診断を貰うために他県の病院へ
家に帰り、息子さんと二人でボーっと座っていたという坂下さん。
その後数日間は、無気力で動けなかったのだそう。
しかしそんな状態になりながらも、「もうこれで本当に最後」と思って、1歳からの診断が可能な他県の病院に連れていくことにしたのだとか。
「もう気力はほとんど残っていませんでした。でも、自閉症と診断されるまではどうしても納得することができなかった。クレーン現象とか、同じものを並べ続けるだとか、日に日に自閉症としか思えない特徴が増えて行っていたからです。息子と自分のために、最後の力を振り絞りました」
診断はやはり「自閉症スペクトラム障害」
そうして訪れた他県の病院。
そこでの対応は、今まで行った病院とは格段に違ったそう。
わずか1歳の息子さんに細かな検査を行い、問診も1時間にわたったという。
そしてようやくここで「自閉症スペクトラム障害」と診断が下りたのです。
「私は心の底からホッとしました。おかしな話だけど早く自閉症だと診断して欲しいとずっと思っていたんです。でも同時に、最後まで息子を発達障害だと疑い、信じてあげられなかった自分は母親失格なのかもしれないとも思い、いろんな感情の狭間で胸が苦しかったです」
そんな坂下さんに医師はこう言ったそう。
『こんなに早く気付けて行動できたお母さんはすごいよ。自閉症の子たちは日々苦痛の中で生きている。その苦痛にいち早く気付けたのはお母さんのおかげ。息子さんは恵まれていたね』
「息子が発達障害かもしれないと予感した時以来、初めて認めてもらえたと思いました。ずっと“信じてあげて”、“考えすぎだよ”と言われて否定されてきたので、お医者さんの言葉に思わず涙がこぼれました」
医師よりも母親の方が正しいことだってある
現在4歳となった坂下さんの息子さん。
彼は今、療育センターに通って自分に合った生活を送れているそうです。
「自閉症が分かるまでは本当に苦しかった。きっと息子も。でも自分を信じて最後まで行動して本当に良かったと思っています。やっぱり、いつもそばにいる母親が一番わかっているし、母親の勘というのは当たるものです。家族や医師は否定しないで聞いてあげて欲しい」
坂下さんはそう力を込めて話してくれました。
時には専門知識を持つ医師よりも、母親の方がこどもの異変や病気を発見できることもあるのだと彼女が教えてくれました。