管理会社に業務委託する管理組合が大半
分譲マンションの共用部分の管理方式には、管理組合自ら行う『自力管理方式』と『業務委託方式』があります。近時のマンション管理業務は、極めて広範かつ複雑で、しかも高度な技術や専門性を必要とし、革新的な設備設計や新たな設備機器の開発により、マンションの設備は、ますます高度化し、複雑化しています。
一方、本来の職業に就いている区分所有者が管理組合員として管理業務に専念することは困難な場合が多くあります。
そのような事情から我が国のほとんどのマンション管理組合では会計の収入、支出の調停などを行う基幹事務業務、管理員業務、建物・設備点検業務等すべてを管理会社に委託しています。管理会社に全く委託しないですべての事務管理業務を組合員だけで行なっているいわゆる『自立管理』や『自主管理』と呼ばれているマンションはわずかに数パーセントです。
そして、管理会社と管理組合が締結する委託契約書は国土交通省でその標準的な契約指針として策定され公表している『マンション標準管理委託契約書』の雛形としています。管理業者と締結する委託契約書のマンション標準管理委託契約書への準拠状況は、『概ね準拠している』が88.8%、『一部準拠している』が1.3%『全く準拠していない』が1.5%となっています。
マンションの多くが、『業務委託方式』を採用しています。しかしながら、平成13年には「マンションの管理の適正化の推進に関する法律」が制定されマンションの管理の適正化に関する指針」には適正な管理や管理組合運営への参加などを明記しています。マンション管理の主体は管理組合であり、管理組合は長期的な見通しを持って、適正な運営を行うことになります。
管理組合の構成員である区分所有者は、管理組合運営への積極的な参加、役割を適切に果たすように努めることが規定されています。管理業者から100%のサービスの提供を受けるという受け身ではなく、組合員もその一翼を担うという気持ちが必要です。『マンション管理の主体は管理組合』であることを再認識していただき、すべてをマンション管理業者任せにすることなく、組合員全員で協力し、管理組合運営の活性化などに努めることが期待されます。
過去に弊所に寄せられた相談事例から「管理会社との管理委託に関する相談」について考えてみたいと思います。
■マンションの情報開示
宅地建物取引業法第35条では、売買契約が成立するまでの間に、「購入予定者に対して購入物件にかかわる重要事項の説明をしなければならない。」と定めています。マンションの所有者から専有部分の売却の依頼を受けた宅地建物取引業者は、契約締結までに「重要事項説明」を行うために、当該組合員が所有する専有部分の売却などを目的とする情報収集をしなければなりません。
マンション標準管理規約第64条第1項では、「理事長は、会計帳簿、什器備品台帳、組合員名簿及びその他の帳票類を、書面又は電磁的記録により作成して保管し、組合員又は利害関係人の理由を付した書面又は電磁的方法による請求があったときは、これらを閲覧させなければならない。この場合において、閲覧につき、相当の日時、場所等を指定することができる。」としています。
また、同規約のコメントでは、組合員から媒介の依頼を受けた宅地建物業者等は利害関係人としています。
このために、管理組合は宅地建物取引業者へ管理規約等の提供・開示をすることになります。標準管理委託契約書第14条では、マンション管理業者に対して宅地建物取引業者が当該事項の確認を求めてきた場合及び所有する専有部分の売却等を予定する組合員が同様の確認を求めてきた場合の対応を定めています。
管理組合がマンションの管理をマンション管理業者に対して委託する際に、管理組合とマンション管理業者との間で締結される管理委託契約では、「別表第5」で「宅地建物取引業者などの求めに応じて開示する事項」として、マンション名称、共用部分関係、駐車場の区画のこと、管理組合の収支関係、専有部分規制関係、ゴミ出しに関する情報等その専有部分の売却等の依頼を受けた宅地建物取引業者から開示を求められると予想される事項ほとんどを網羅していますが、実際の契約書作成に当たっては、「単棟型」・「団地型」・「複合型」により、また管理規約などの管理規定や関係図書などの保管状況に応じて適宜追加、修正、削除することになります。
しかし、マンション管理業者が提供・開示できる範囲は、原則として管理委託契約書別表5に定める範囲となります。
「一般的にマンション内の事件、事故等の情報は、売主又は 管理組合に確認するよう求めるべきである。」(標準管理委託契約書第14条の関係コメント)としています。本来宅地建物取引業者への管理規約等の提供・開示は管理組合又は売主たる組合員が行うべきものであるため、これらの事務をマンション管理業者が行う場合には、管理規約等においてその根拠が明確に規定されていることが望ましいです。(標準管理委託契約書第14条の関係コメント)
マンション管理業業者による提供、開示できる範囲は、原則として管理委託契約書で定める範囲になります。管理組合はこの内容を参考にして、その根拠を明確にして、その範囲については交付の相手方に求める費用等とあわせ細則に定めておくとよいでしょう。