(※写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、三井住友DSアセットマネジメント株式会社が提供する「宅森昭吉のエコノミックレポート」の『経済指標解説』を転載したものです。

 

半導体不足、アジアでのコロナによる活動制限等で生産指数・前月比低下

 

経済産業省の生産指数・基調判断は「足踏みをしている」に引き下げ

 

7~9月期は生産予測指数等から見て5四半期ぶり・前期比下降の見込み

 

8月分一致CI前月差下降が予測されるが基調判断は「改善」継続の見込み

 

(鉱工業生産)

●鉱工業生産指数・8月分速報値・前月比は▲3.2%と、2ヵ月連続の低下となった。季節調整値の水準は95.0で、21年5月の93.5以来の水準になった。前年同月比は+9.3%で6ヵ月連続の上昇となった。

 

●8月分鉱工業生産指数では、全体15業種のうち、窯業・土石製品工業など3業種が前月比上昇したが、自動車工業を中心に、電気・情報通信機械工業を始め12業種が低下したことから全体として低下した。半導体不足が長引いているところに、新型コロナウイルス感染症の拡大を受けたアジア各国での経済活動制限等による部材調達不足の影響が出たようだ。

 

●経済産業省の基調判断は20年4月分・5月分で「総じてみれば、生産は急速に低下している」だったが、6月分で、「生産は下げ止まり、持ち直しの動きがみられる」に上方修正された。7月分で下げ止まりが外れ、「生産は持ち直しの動きがみられる」となった。8月分では、「生産は持ち直している」に上方修正された。その後、前回の21年7月分まで、「生産は持ち直している」で据え置きになっていたが、今回8月分では、19年1月分・2月分以来の、「生産は足踏みをしている」に引き下げられた。

 

●先月発表された製造工業予測指数8月分は前月比+3.4%の上昇の見込みであった。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、8月分の前月比は先行き試算値最頻値で+0.1%の上昇で、90%の確率に収まる範囲は▲1.7%~+1.9%になっていた。実際には、鉱工業生産指数の前月比が▲3.2%の低下になったが、これは製造工業予測指数や、試算値最頻値の下限を大幅に下回る低下率である。

 

●8月分速報値の鉱工業出荷指数は、前月比▲3.8%と2ヵ月連続の低下になった。前年同月比は+7.7%で6ヵ月連続の上昇となった。

 

●8月分速報値の鉱工業在庫指数は、前月比▲0.3%と2ヵ月連続の低下になった。前年同月比は▲3.9%と16ヵ月連続の低下となった。

 

●8月分速報値の鉱工業在庫率指数は、前月比+3.4%で、2ヵ月連続の上昇になった。前年同月比は▲10.3%と11ヵ月連続の低下となった。

 

●鉱工業全体の在庫循環の動きをチェックするために、縦軸に鉱工業在庫指数・前年比、横軸に鉱工業出荷指数・前年比をとった在庫サイクル図をつくると、20年7~9月期までは「在庫調整局面」の状態にあったが、20年10~12月期、21年1~3月期では「意図せざる在庫減局面」になっていた。4~6月期では在庫の前年同月比▲5.0%、出荷が前年の反動もあり、前年同月比+18.8%と2ケタの伸び率になり、「在庫積み増し局面」に入った。7~8月分では在庫が前年同月比▲3.5%、出荷が前年同月比+9.9%の伸び率になり、引き続き「在庫積み増し局面」となっている。

 

 

●鉱工業生産指数の先行きを製造工業予測指数でみると9月分は前月比+0.2%の上昇、10月分は前月比+6.8%上昇の見込みである。過去のパターン等で製造工業予測指数を修正した経済産業省の機械的な補正値でみると、9月分の前月比は先行き試算値最頻値で▲1.3%の低下になる見込みである。90%の確率に収まる範囲は▲3.2%~+0.6%になっている。

 

●先行きの鉱工業生産指数、9月分を先行き試算値最頻値前月比(▲1.3%)で延長したあと、10月分を製造工業予測指数前月比(+6.8%)で、11月分・12月分を前月比横這いで延長すると、7~9月期の前期比は▲2.1%の低下に、10~12月期の前期比は+4.8%の上昇になる。また、9月分・10月分を製造工業予測指数前月比(+0.2%、+6.8%)で、11月分・12月分を前月比横這いで延長すると、7~9月期の前期比は▲1.6%の低下に、10~12月期の前期比は+5.8%の上昇になる。7~9月期は5四半期ぶりに、一時的な前期比低下になる可能性が大きい状況だろう。

 

(8月分の景気動向指数・速報値予測)

●8月分の景気動向指数・速報値では、先行CIが前月差▲2.4程度の下降になると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列では、新規求人数、日経商品指数、東証株価指数、中小企業売上げ見通しDIの4系列が前月差プラス寄与に、最終需要財在庫率指数(逆サイクル)、鉱工業生産財在庫率指数(逆サイクル)、新設住宅着工床面積、消費者態度指数、マネーストックの5系列が前月差マイナス寄与になるとみた。

 

●8月分の一致CIは前月差▲3.2程度の下降になると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列では、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、有効求人倍率、輸出数量指数の全系列が前月差マイナス寄与になると予測した。

 

●8月分で景気の基調判断は、景気拡張の可能性が高いことを示す「改善」が継続されると予測する。景気拡張の動きが足踏み状態になっている可能性が高いことを示す「足踏み」に下方修正される条件は「3ヵ月後方移動平均(前月差)の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1ヵ月、2ヵ月、または3ヵ月の累計)が1標準偏差分以上かつ当月の前月差の符号がマイナス」になることである。8月分は一致CIの前月差が下降である。しかし、8月の3ヵ月後方移動平均は、前月差がマイナスだった7月分との2ヵ月合計でも前月差累計が▲0.66程度にとどまり、1標準偏差分の▲1.00には届かない。「改善」が維持されると予測する。

 

●8月分の先行DIは55.6%程度と景気判断の分岐点の50%を上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な9系列中、新規求人数、新設住宅着工床面積、消費者態度指数、日経商品指数、東証株価指数の5系列がプラス符号に、最終需要財在庫率指数(逆サイクル)、鉱工業生産財在庫率指数(逆サイクル)、マネーストック、中小企業売上げ見通しDIの4系列がマイナス符号になるとみた。

 

●8月分の一致DIは37.5%程度と景気判断の分岐点の50%を上回ると予測する。速報値からデータが利用可能な8系列中、生産指数、鉱工業生産財出荷指数、有効求人倍率の3系列がプラス符号に、耐久消費財出荷指数、投資財出荷指数、商業販売額指数・小売業、商業販売額指数・卸売業、輸出数量指数の5系列がマイナス符号になると予測した。

 

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2021年8月分鉱工業生産指数・速報値について』を参照)。

 

(2021年9月30日)

 

宅森 昭吉

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

理事・チーフエコノミスト

 

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