大企業・製造業・業況判断DIもたつく、+14程度と6月調査と同水準を予測
大企業・非製造業・業況判断DIは0程度と6月調査から▲1ポイント程度の悪化を予測
12月までの見通しは、コロナ落ち着き行動制限緩和期待での若干持ち直しと予測
●9月調査日銀短観では、大企業・製造業の業況判断DIが+14程度と6月調査の+14と同程度の数字になると予測した。18年12月調査の+19以来の水準である。8月下旬の2万人台の新型コロナウイルス新規感染者数、緊急事態宣言の延長等の悪影響を懸念する見方と、9月に入ってからの新規感染者数の減少、全人口の50%超となったワクチン接種完了者数、先行きの行動制限緩和案の検討、日経平均株価3万円台などの明るい兆しを意識する見方が交錯し、9月調査の日銀短観での製造業の景況感はもたつく数字になるとみた。
●また、大企業・非製造業の業況判断DIは0程度と、こちらは6月調査の+1から▲1ポイント程度悪化するとみた。多い時で21都道府県に発出された緊急事態宣言の影響などの影響が出るとみた。
●この予測は、日銀短観DIと連動性が高いことが知られているQUICK短観(9月調査)やロイター短観(9月調査)などに加え、回答期間中の新型コロナウイルスの感染者数の動向、ワクチン接種の動向なども参考にした。
●9月13日に発表されたQUICK短観9月調査の調査期間は9月1日から9月10日である。製造業の業況判断DIは6月調査の+26と同じ+26となった。製造業の業況判断DIは7月調査で+29になったが新型コロナの変異ウイルス感染再拡大による行動制限の長期化が企業心理の重荷になったようで8月・9月と2ヵ月連続で低下となった。また、非製造業の業況判断DIは6月調査の+18から4ポイント悪化の+14となった。
●9月15日に発表されたロイター短観9月調査の調査期間は9月1日から9月10日である。9月調査400社ベースの製造業の業況判断DIは6月調査の+22から4ポイント悪化し+18になった。8月調査の+33から比べると15ポイントの低下で20年3月以来の大幅悪化である。ロイター通信は「新型コロナウイルス変異株の感染急拡大や自動車の減産などが響き」と分析している。また、9月調査200社ベースの製造業の業況判断DIは6月調査の+27から6ポイント悪化し+21になった。
●一方、ロイター短観9月調査400社ベースの非製造業の業況判断DIは6月調査の0から2ポイント悪化し▲2になった。9月調査200社ベースの非製造業の業況判断DIは6月調査の+10から9ポイント改善し+19になった。
●9月のQUICK短観とロイター短観の数字の判断は、9月調査の日銀短観との調査期間の違いを考慮する必要があるかもしれない。全国の新型コロナウイルスの新規感染者が過去最大だったのが、8月20日の25,868人だったが、2万人台は9月1日20,023人が最後である。この直後での調査では新型コロナウイルス感染者数増加、緊急事態宣言の延長等の悪影響を懸念する見方が多くて当然であろう。
●なお、今回の日銀短観で多くの回答が集まる調査基準日は9月10日である。この頃になると、新規感染者数の減少、全人口の50%超がワクチン接種完了となったこと、新型コロナウイルスのワクチンを接種済みなら感染拡大が進行中の地域でも県境を越えた移動を可能とするなど行動制限の緩和案が検討されていること、日経平均株価3万円台などが意識された時期になる。9月調査の日銀短観は、9月のQUICK短観とロイター短観の動向からみるよりは、若干明るい数字になる可能性がありそうだ。
●なお、9月調査の大企業・製造業の業況判断DIが予測通り+14程度なら6月調査の「先行き見通し」+13を1ポイント程度上回ることになる。事前の予想より景況感が僅かだが上振れたことになる。また大企業・非製造業が予測通り0程度なら、6月調査の「先行き見通し」+3を3ポイント程度下回る。非製造業では新型コロナウイルスの感染拡大が予想外に酷く、前回調査時の先行き予想を下回ったということになろう。
●QUICK短観9月調査の製造業の12月までの「先行き見通し」は+20で9月実績の+26より6ポイント悪化の見込み、一方、非製造業の12月までの「先行き見通し」は+19で9月実績の+14から5ポイント改善予想である。
●一方、ロイター短観9月調査の12月までの「先行き見通し」は、製造業・400社ベースで+19と6月実績の+18から1ポイント改善の見込み、製造業・200社ベースで+24と9月実績の+21から3ポイント改善の見込みである。一方、非製造業・400社ベースの12月までの「先行き見通し」は+7と、9月実績の▲2から9ポイント改善の見込み、非製造業・200社ベースで+19と9月実績の+19から横這いの見込みである。
●日銀短観の大企業・業況判断DIの12月までの「先行き見通し」は、QUICK短観やロイター短観などを参考にして、9月実績比1ポイント改善の+15程度、非製造業は9月実績比5ポイントの改善の+5程度と予測した。
●9月調査日銀短観の中小企業の業況判断DIは製造業が▲11程度と6月調査の▲7から4ポイント程度悪化すると予測した。非製造業は6月調査の▲9から5ポイント程度悪化し▲14程度になるとみた。この予測値は、景気ウォッチャー調査の企業動向関連の現状水準判断DIなどを参考にして予測した。
●参考データの景気ウォッチャー調査の企業動向関連の現状水準判断DI・季節調整値の最近の推移は製造業が21年3月調査41.3、4月調査39.7、5月調査41.1、6月調査44.2、7月調査44.2、8月調査39.9と推移してきている。
●一方、非製造業は21年3月調査38.4、4月調査38.0、5月調査38.8、6月調査40.9、7月調査41.9、8月調査35.8と推移している。なお、日銀短観は水準の調査なので、景気ウォッチャー調査の方向性の現状判断DIではなく、参考データの現状水準判断DIの方を重視した。
●日銀短観の中小企業・製造業の業況判断DIが▲11程度と予測通りなら、6月調査の「先行き見通し」の▲6より5ポイント低い水準で、事前の見通しより悪化したことになろう。また中小企業・非製造業が▲14程度と予測通りなら、6月調査の「先行き見通し」の▲12を2ポイント下回ったことになる。日銀短観の中小企業・非製造業の先行き見通しは通常かなり弱めに出ることが多く、それをさらに下回ったことで、景況感が事前に思ったより相当悪くなったことを意味しよう。
●日銀短観の中小企業・業況判断DIの9月までの「先行き見通し」は、製造業で9月実績比1ポイント改善の▲10程度、一方、非製造業は9月実績比3ポイント悪化の▲17程度と予測した。中小企業・非製造業では先行きをいつも慎重にみるというクセも考慮した。
●21年度の大企業・全産業の設備投資計画は前年度比+8.8%程度と予測した。6月調査の同+9.6%から増加率が縮小すると予測した。新型コロナウイルスの影響による先行きの不透明さから企業が設備投資にやや慎重になったとみた。なお、日銀短観の設備投資の予測には、法人企業景気予測調査や、景気ウォッチャー調査から作成する設備投資DI、過去の修正パターンなどを参考にした。
●21年度の中小企業・全産業の設備投資計画は前年度比+1.0%程度と、6月調査の同+0.9%から僅かに上方修正されると予測した。中小企業の設備投資計画は例年3月調査が弱く、その後は1年後の3月調査まで調査の度に改善していく傾向がある。今年度も9月調査は6月調査より極めて小幅だが改善するとみた。
<9月調査日銀短観・予測値>
1)大企業
9月製造業DI +14
9月非製造業DI +0
12月製造業DI +15
12月非製造業DI +5
2021年度設備投資計画(全産業)前年度比 +8.8%
2)中小企業
9月製造業DI ▲11
9月非製造業DI ▲14
12月製造業DI ▲10
12月非製造業DI ▲17
2021年度設備投資計画(全産業)前年度比 +1.0%
※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『2021年9月調査 日銀短観 予測』を参照)。
(2021年9月15日)
宅森 昭吉
三井住友DSアセットマネジメント株式会社
理事・チーフエコノミスト