(※写真はイメージです/PIXTA)

社会の高齢化とともに深刻さを増す、家賃滞納問題。ここでは、「川崎市で40年ほどネジ工場を営む影山さん(73歳)」の家賃滞納トラブルについて、OAG司法書士法人代表・太田垣章子氏が解説します。 ※本記事は、書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より一部を抜粋・編集したものです。

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    絞り出た声「年金がないから、少しでも働きたい…」

    予め和解内容は代理人同士で作成していましたが、法廷とは別の部屋で影山社長も同席の上、双方で詳細を確認しました。

     

    「機械の撤去は大丈夫ですか?」

     

    こちら側が問うと、影山社長は予め同業の人に打診していたようで力強く頷きました。

     

    「それは大丈夫です。それよりやっぱり継続させていただくということは、難しいですか?」

     

    まだ工場を続けたいようです。73歳、歩くことすら足元がおぼつかない状態で、まだお仕事がしたいのでしょうか。

     

    「年金がないから、少しでも働きたい……」

     

    できるだけ働けばいいと思って、ご自身の年金等を準備していなかったようです。家賃を滞納するくらいなので、預貯金等もあまりないのでしょう。この先の生活が不安なのは分かりますが、それでもこれだけの滞納で継続はあり得ません。

     

    影山社長の代理人も諫めます。

     

    「社長、どう考えてもこのまま事業をするのは厳しいので、ここは明け渡しましょう。機械を完全撤去して明け渡したら滞納分は免除していただけるようなので、そうしましょう。ここで和解しなければ、判決がでてしまいますよ。そうしたら滞納分だって、払わないといけなくなりますから」

     

    影山社長は納得できないものの、仕方がないということで黙って下を向いていました。結局代理人同士で作成した和解案通りで、訴訟は終わりました。

     

    そして2ヵ月後、約束通り工場の中は空っぽの状態で明け渡しが完了しました。やはり機械は同業に買い取ってもらって、運び出されたようです。買ってもらったんだから、その分で滞納分払ってよと言いたくなる心情ですが、売買代金は撤去費用と相殺。影山社長からすると、費用を払わずに撤去してもらえたことは御の字だったようです。

     

    これから急激に増えてくる高齢者の何割かは経営者もいるはずです。そしてこの人手不足から、後継者がいない経営者も多いはず。若いときなら知力も気力も体力もあって清算もできるでしょうが、高齢になるとそこがしんどくなっていくのでしょう。

     

    特に仕入れがない事業なら、動いている間は収入が入ってくるとギリギリまで頑張ってしまうかもしれません。年金が当てにできなくなると、1日でも長く働いて収入を得ようと思うのは当然です。ただどこかで代替わりもしくは清算しなければならず、この問題は本当に深刻です。

     

    サラリーマンの定年という制度。ある意味、理に適っているのかもしれません。

     

     

    ※本記事で紹介されている事例はすべて、個人が特定されないよう変更を加えており、名前は仮名となっています。

     

     

    太田垣 章子

    OAG司法書士法人代表 司法書士

     

     

     

    老後に住める家がない!

    老後に住める家がない!

    太田垣 章子

    ポプラ社

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