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裁判官は和解を提案…滞納分は全額支払って欲しいが
2回目の期日、影山社長の代理人も出席して審理が行われました。
代理人は答弁書の通り、解約書面の無効の主張です。しかしながら長年存続した法人の代表者の押印。「真意を分からなかった」では通りません。滞納額も高額であるため、裁判官からの和解が促されました。
「賃借人も高齢で後継者がいないなら、明け渡す方向で話し合ってください。滞納額がこれだけあれば、継続ということは難しいと思いますよ。賃借人の説得、お願いしますね。原告側も滞納額を放棄する等、譲れるラインを相談してきてください」
明け渡してもらうのに、滞納額を免除する、おかしな話だと思いますが、互譲しないと事態は収まりそうにありません。裁判官の勧告にこちらも、そして影山社長の代理人も頷きました。
互譲のライン……。難しいところです。
家主としては、滞納分は全額支払って欲しいし、工場内の機械も当然に撤去して完全スケルトン状態で終了したいと思っています。おそらく機械の撤去は、数百万単位でかかりそうです。滞納額は明け渡しの時期にもよりますが、300万円近くになるはずです。
「貸してさ、使われていてさ、払ってもらえないって、こんなに大変なのに、まだ免除しなきゃいけないのって本当におかしいよね」
家主の言い分は、正論です。もし別の賃借人なら毎月家賃は支払われているだろうから、不運としかいいようがありません。ただ現段階で、そんな「たら・れば」を言っていても仕方がないので、家主の絶対に譲れない点を尋ねました。
「機械の撤去。これが最優先ですね」
素人では運びだせそうにない機械なので、もっともな回答です。そうなると1ヵ月では撤去は厳しいでしょうから、明け渡しの期限は2ヵ月先にして、もし完全撤去なら、滞納分は免除するという内容にすることにしました。
問題は先方が、明け渡しに同意するかどうかということになりそうでした。
一ヵ月後の期日、先方は代理人と影山社長本人も出廷しました。
影山社長は年齢より老けた感じで、仕事を積極的にしているような雰囲気にはとても見えません。裁判官も同じような印象を持ったようです。影山社長がおぼつかない足取りで被告席に座るのを、急かすことなくじっと気長に見つめていました。
「大丈夫ですか? では始めます。滞納額も返済できないでしょう? 明け渡しということでよろしいですか? 原告側も譲歩できるよね。では司法委員と詳細を詰めてください」