問題は採算面だけではないが…裏を返せば
また、消耗品の在庫管理も、施設内で行うのとは違い、個々の患者さん宅の在庫状況を確認、補充する必要がありますので手間がかかります。さらに、在宅血液透析を行うための研修も、時間、マンパワーともにかかります。
このように、患者への教育、訓練には相当な時間がかかり、医師にもスタッフにも人に教えて習得させるだけの教育力が求められます。どんなに評判の良い透析施設でも、患者さんに透析のやり方を適切に教えることができるかどうかはまた別の問題です。
患者も年代や透析歴、ライフスタイルなどはさまざまです。メカには強いけれど組み立てや後片付けは苦手な方とか、視力が落ちていて機器の表示が見にくいという方もいます。そうしたさまざまな事情、個性のある患者に対し、できるようになるまで個別に教えることは、工夫や忍耐力が求められます。
仮に、こうした課題をクリアして、在宅血液透析を導入したとしても、それまでの手間に見合うほどの収益になりにくいというのが実情です。
ひとたび在宅血液透析を導入すれば、医療機関としてはその分施設のベッドもスタッフのパワーも空くので、より多くの施設透析患者を迎えることができる、という考え方もできますが、在宅血液透析の保険点数が低く、トータルで見ると施設血液透析のみで運営していくほうが、医療機関にとっては収益面もパワーの面でも分が良い、ということになってしまうのです。
さらに、在宅血液透析を実施するには厚生労働省の許可を得る必要があります。
自院内での透析治療で手一杯の施設も少なくありませんので、在宅透析の導入に十分なパワーがかけられない、あるいは、残念なことですが、はなから採算がとれないと判断してパワーをかけようとしないところも現実としてはあるのです。
しかし近年、医療界でも在宅透析の普及率を上げる気運が高まってきています。将来的に、在宅血液透析者が増える流れになっていくものと期待しています。
裏を返せば、まだ普及がそれほど進んでいない今の時点で、在宅血液透析を行っている医療機関は、透析に関して確かな知識と技術をもった医療スタッフがいる、という1つの証になると見なせます。在宅透析患者がいるクリニックは、施設透析もクオリティが高いとの判断基準になり得ると考えます。
当院では、施設血液透析にこだわらず、異なる治療法を検討して、生活の質の維持向上・社会参加のサポートを行っています。