(※写真はイメージです/PIXTA)

何らかの持病を持つ患者さんのなかには、会社でできない業務があったり、残業ができなかったりして、肩身の狭い思いをする方もいます。「誰にとっても働きやすい環境づくり」について、30代の透析患者・Bさんの事例をもとに、南青山内科クリニック院長の鈴木孝子氏が解説します。

透析患者と会社での立ち回り…「医師からの直談判」

30代の男性Bさんは、多発性嚢胞腎のため5年ほど前から透析を受けています。この疾患は、文字が表すように腎臓に嚢胞がたくさんできて腫れたようになってしまうので、お腹が張るのが大きな特徴の1つです。そのためにお腹に力が入りにくく、重いものを持ち上げるなどの力仕事がしにくいのです。

 

しかし、Bさんはもともとがっしりした体格で、はためには力仕事が向かないようには見えません。職場でも体が大きいからと倉庫で荷物を出し入れする物流系の仕事を任されました。Bさんもせっかく雇ってもらっているのだから、としばらくは頑張っていましたが、やはり体に無理がかかり、受診時に体調不良を頻繁に訴えるようになりました。

 

私はBさんから仕事内容を聞き、変えてもらうほうがよいと判断。すぐ雇用主である社長に電話し、多発性嚢胞腎がどのような病気かをいちから説明させていただいたのです。

 

それを聞いた社長は驚いた様子で「知りませんでした」とおっしゃいました。Bさん自身は5年前から施設血液透析に通っており、診察時の受け答えなどから、本人は病気のことをよく勉強していて、理解している様子がうかがえました。その勉強熱心なBさんですら、社長に自分の病気のことを十分に説明していなかったのです。

 

社長はすぐに、対策をとってくれました。力仕事が必要な物流系の仕事から、デスクワーク中心の事務職へと配置換えをしてくれたのです。そのおかげでBさんは体調もよくなり、今も元気にこの会社で働いています。

 

このケースのほか、患者さんの就労に関して、私が雇用者に“直談判”することは何度かありました。

 

Bさんのケースのような体力勝負の仕事のほか、外回りや残業が多い仕事は、透析技術が進歩して、体調管理がしやすくなっているとはいえ、健康な人と比べれば負荷が大きいと考えます。

 

また、健康な人よりも風邪などの感染症にもかかりやすいため、衛生面にも配慮してほしいことや、体を冷やさないよう、比較的温暖な職場環境が適しているともいえます。

 

透析患者さんにとって通勤電車は大変ですから、時間の調整ができるようになればなおよいと思っています。

 

また、透析を続けていると、慢性的な体調不良などからうつ状態になってしまうことも多々あります。メンタル面のフォローやサポート体制があればなおよいかと思われます。

 

私は社長や人事、所属部署の統括責任者など、できるだけ仕事上で影響力のある人に話すようにしています。と同時に、直属の上長など、実務において近しい人、透析患者さんの業務の様子を見ている人にも、病気のことを理解してもらえるよう働きかけるようにしています。

 

本人が直接、行動を起こせるのが理想ですが、そうすることで会社のなかでの立場が悪くなるのではないか、処遇が悪くなったらどうしよう、という不安は常につきまとうものです。雇ってもらっているだけでもありがたい、とがまんしてしまう人も多いのです。

次ページ「どんな身体状況であっても」働きやすい環境づくり

※本連載は、鈴木孝子氏の著書『「生涯現役」をかなえる在宅透析』(幻冬舎MC)より一部を抜粋・再編集したものです。

「生涯現役」をかなえる在宅透析

「生涯現役」をかなえる在宅透析

鈴木 孝子

幻冬舎メディアコンサルティング

わが国で透析といえば一般的に、医療機関に通って行う「施設血液透析」のことを指します。 実際に9割の患者がこの方法で治療を受けています。しかしこの方法は、人間らしい生活が奪われるといっても過言ではなく、導入直後は…

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