「入院したい」にショックを受けたが…患者が隠していた本音【在宅医が見た医療の現場】

「入院したい」にショックを受けたが…患者が隠していた本音【在宅医が見た医療の現場】
(※画像はイメージです/PIXTA)

最期の時間をどこでどう過ごすかについて、本人や家族それぞれの思いがあるはずです。実際の選択は、家族のサポート、経済的、医療的サポートがどこまで可能かという部分がありますが、納得のいく最期を選ぶ方法とは…。※本連載は中村明澄著『「在宅死」という選択』(大和書房)より一部を抜粋し、再編集した原稿です。

終末期のゴールは、穏やかに過ごすこと

■病気の治療のように治そうと頑張らない

 

治療が可能な時期は、希望をもって「頑張って治そう」とすることは、とても大切なことです。でも回復が見込めない病状や老衰が進行している終末期は、「頑張らない」ということが大切になってきます。終末期に「治そう」と頑張ってしまうと、逆に大切な時間を失うことにもなりかねませんので、どちらかというと体力温存の方向にギアチェンジをしていくことを考えるのも大切な時期です。

 

身体が弱ってきたのは、食べないためではなく病気が進んだためです。動けないのは、リハビリが足りないからではありません。病気が進んで身体が弱ってきたからです。頑張ってうごくことで寿命を縮めてしまうことにもなりかねません。「省エネ」で過ごしていただくのが、穏やかに過ごせる鍵になります。十分頑張ってきたので、今はゆっくり休むときなのです。

 

■「頑張って」は本人を苦しめるだけ

 

残された時間が限られているのに、「頑張れ」とみなさんよくおっしゃいます。頑張って食べさせたり、寝たきりになっては大変だとリハビリで歩かせようとしたりしてしまうのです。でも周囲が「頑張ってモード」になると、つらくなるのはご本人です。

 

「頑張れば、もうちょっとでもよくなるのでは」という願望を、死に行く本人に押しつけるのは、それこそ酷。自分の死期を察してもなお、ほとんどの方が「家族が応援しているから頑張らなくちゃ」とまわりの期待に応えようとして、無理をすることになります。

 

「抗がん剤はつらいからもうやめたいけど、家族がやってほしいから……」とおっしゃる方もいます。本人にはその気がないのに、周囲が「頑張って」と無理強いしてしまうと、現実がつらくなるばかりです。周囲が死を受け入れられさえすれば、ご本人は肩の荷が下りてラクになれることもあります。そして互いに支え合いながら、最期のひとときを過ごせるようになるのです。

 

■ 原因を追求しすぎない

 

老衰で食事がとれなくなってきたり、歩けなくなってきたときに「お年ですから」と言われ、納得できなくて検査し続ける方がいます。本人が納得できなくてあちこちの病院を訪れるのはわかります。ただ、家族がそれをやり続けるのは、私は悲しいことだと思います。

 

たとえば、こんなケースはどうでしょう?

 

95歳の女性で、食事量が低下してきました。病気があるかもしれない、と外来を受診すると、医師に「検査しますか?」と聞かれました。

 

検査してもらうために病院に来たのに、なんでこんなこと聞くのかしら?

 

みなさんはどう思いましたか?

 

もし老衰の時期なら、検査でつらい思いをして、今より具合が悪くなるかもしれません。また、胃癌などみつかっても高齢ですと抗がん剤は使用できませんし、年齢的にも手術に堪えられる体力が十分にないため、治療そのものが無理ということになります。それであれば、検査自体必要がないかもしれない、様子を見ながら、食べられるものを少しずつ食べなから、穏やかに過ごす選択肢があってもいいのでは、と思うのです。

 

家族が病気の原因追求を使命に感じ、ご本人がつらくなるのは避けたいなと思います。

 

■ いかに心地よく過ごすか

 

穏やかに過ごすという目的では、病院と自宅での医療に差がほとんどありません。むしろ、自宅のほうがいいこともあります。

 

大切になるのは、いかにつらくなく心地よく過ごすかです。医療用麻薬を使って、患者さんの痛みや苦しみをとっていくのも重要なケアになるわけですが、まだまだ誤解があります。

 

つらい症状は医療用麻薬を使用して緩和できますが「怖い、危ない」という先入観のために拒否する方もいらっしゃいます。

 

こうした誤解を解いて正しい医療の情報を得ることも、幸せな看取りに欠かせない大切な要素です。

 

 

中村 明澄
在宅医療専門医
家庭医療専門医
緩和医療認定医

 

 

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