社会の高齢化とともに深刻さを増す、家賃滞納問題。ここでは、「千葉で理容店を営む80代夫婦」の家賃滞納トラブルについて、OAG司法書士法人代表・太田垣章子氏が解説します。 ※本記事は、書籍『老後に住める家がない!』(ポプラ社)より一部を抜粋・編集したものです。
家主は大激怒「こんな腹が立つ書面ってありますか!」
年齢的なこともあって、できるだけサポートして任意退去をと思いましたが、話し合いができない以上、訴訟手続きで進めるしかありませんでした。訴訟を提起したのと前後して、弁護士から破産の受任通知が家主に届きました。
「こんな腹が立つ書面ってありますか! まるでこちらが悪質な督促をしているみたいじゃないですか。気を遣って督促もできなかったほどなのに。こんな後ろ足で砂かけるような奴、もう許せません」
家主が憤慨するのも、分からなくはありません。受任通知は定型の貸金業宛ての様式で、受け取った方は威圧感を覚えてしまうのです。
「家賃払わんと、こんな書面まで送ってきやがって。被害者はこっちや」
家主の怒りは、収まりそうにありません。代理人の先生が建物明渡等請求事件のことを把握された上での話かどうか分からなかったので、私の方から電話をしてみました。
その方は、訴訟の方はご存じなかったようです。300万円以上の滞納で、退去してもらえずに迷惑している旨をお伝えすると、急に恐縮された対応となりました。悪い先生ではなさそうです。
「破産もされるというなら、こちらは1日も早く荷物を完全撤去して、任意退去していただきたいです」
そうお伝えすると、自身が責任を持って期日までに退去させます、と約束してくれました。訴訟での明け渡しが早いのか、それとも任意退去が早いのか、どちらにしても明け渡しは時間の問題となりました。
OAG司法書士法人代表 司法書士
株式会社OAGライフサポート 代表取締役
30歳で、専業主婦から乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。
登記以外に家主側の訴訟代理人として、延べ2500件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。
トラブル解決の際は、常に現場へ足を運び、訴訟と並行して賃借人に寄り添ってきた。決して力で解決しようとせず滞納者の人生の仕切り直しをサポートするなど、多くの家主の信頼を得るだけでなく滞納者からも慕われる異色の司法書士でもある。
また、12年間「全国賃貸住宅新聞」に連載を持ち、特に「司法書士太田垣章子のチンタイ事件簿」は7年以上にわたって人気のコラムとなった。現在は「健美家」で連載中。
2021年よりYahoo!ニュースのオーサーとして寄稿。さらに、年間60回以上、計700回以上にわたって、家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」に関する講演も行う。貧困に苦しむ人を含め弱者に対して向ける目は、限りなく優しい。著書に『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』『老後に住める家がない!』(どちらもポプラ新書)がある。
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