知識を授けるだけが学校の役割でない
オンライン授業は、現時点では、しかるべき基準に満たない代物ではあるが、小売りの世界同様に、本来なら萎んでいたはずの市場で、すでに大きなシェアを獲得し続けている。たとえば、アメリカの総合的な大学進学者数について、学生情報研究センターは、次のように説明している。
「2016年秋期入学者数に比べて、2017年秋期入学者が約9万人減少した。これはほぼ0.5%減に相当する。だが、履修科目の一部でもオンラインで履修した学生の総数は、35万人以上増加し、前年比5.7%増と、かなりの増加となった」
だが、ギャロウェイの指摘によれば、こうしたチャンスも、大手テクノロジー企業と無縁ではいられない。2020年8月、グーグルは、需要の高い多様な職業を対象に、資格認定プログラムのカリキュラムを発表した。このプログラムは、「グーグル・キャリア認定資格」と呼ばれるもので、従来の大学の課程を履修するのに何年もかかるのに対して、こちらは6カ月で修了できる。
同プログラムの費用について、詳しいことはまだわかっていないが、グーグルの発表によれば、コース受講料は一般的な授業料の数分の1程度で済むうえ、雇用者が求めている職種ごとの条件に正確に焦点を絞っているため、理屈の上では従来の大学の教育課程で学ぶよりも、就職率は高くなるという。
グーグルのプログラムが狙っているのは、規模が大きくて有望で高収益が見込めるにもかかわらず手薄になっている市場だ。こうした市場は、時代遅れの教育システムの影響下から解放されるのを待ちわびている。従来の正規教育が“ビジネスクラス”だという前提に立ち、オンライン授業を格下のエコノミークラス的に扱ってきた制度下で、学生は何世代にもわたって経済的に服従するしかない状態を強いられてきた。
もちろん、知識を授けるだけが学校の役割でないことも確かだ。自分探しや友達づくり、人生経験に大切な時期でもある。
まだパンデミック初期段階に、カナダで10~17歳の児童・生徒を対象に実施された調査によれば、75%が「勉強についていくことができている」と回答してはいるが、60%が「やる気が持てず退屈だ」と訴えている。登校できていたころを振り返って、一番寂しく思っていることを尋ねる設問には、50%以上が友達に会えないことを挙げていた。スポーツや課外活動との回答は、ずっと少なく16%だった。だが、「学校での授業に戻りたい」との回答は、36%にとどまった。
要するに、デジタル時代に向けた教育改革には、対象の学年を問わず、「商品」と「提供方法」の見直しが求められるのだ。実際、デジタルによる情報伝達でも、対面授業に匹敵する結果を出すことは可能になっている。ただし、遠隔地にいる学習者に、どうすればきちんと意味のある社会構造を体験させられるかは、まだ定かではない。
仕事と教育の双方でこうした変化が生まれると、都市に依存してきた仕組みが再構築されるだけでなく、都市との往来にも劇的な影響が及ぶ。
ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント