飯田屋は100年以上続く老舗の料理道具専門店です。「売れないは他店より高いから」と考えた6代目店主は他店の価格調査を行い、安売り戦争に突入していった。しかし、お客は増えず、増えたのは…。本連載は飯田結太氏の著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)を抜粋し、再編集したものです。

値段が高いから商品が売れない確信は

■いざ、安売り戦争に参戦!

 

「もっと安くならない?」
「なぁ、少し勉強できない?」

 

問屋街といわれるかっぱ橋道具街では、日常的に値切り交渉や相見積もりが行われます。そんな道具街にあって、100店舗以上の同業社の中からどうしたら飯田屋を選んでもらえるか、僕はいつも頭を悩ませていました。

 

あるとき、ご来店くださるプロの料理人たちがみんな、片手に小さなメモ帳を持っていることに気がつきました。商品を手にとって価格を見てはメモ帳に書き込み、ぐるりと店内をひと回り物色すると、次の店へと足を運んでいきました。1円でも安く購入できる店を探しているのです。

 

誰だって安く買いたいに決まっています。問題は、メモをとって店を後にした方が誰一人として飯田屋に戻ってこないという現実です。

 

かっぱ橋道具街がかつての活気を失っていたとはいえ、相変わらずお客様でにぎわう繁盛店はあります。一方で飯田屋からは客足が遠のき、経営の危機に瀕しています。

 

「この違いはいったいなんなのだろうか?」

 

ずっと抱いていた悩みの解決策が見えてきました。飯田屋が選ばれない理由、それは価格で他店に負けているからだと確信したのです。

 

「飯田屋はどこよりも安いと思っていただければ、お客様は必ずうちで買ってくれる。これからは、どの店よりも1円でも安く販売しよう!」

 

そう決意すると、まずは他店の販売価格を知る必要がありました。

 

 

長年勤める従業員たちは誰一人として、「他店の価格調査なんて久しくしていない」と言います。「なぜ、こんな簡単なことすらしてこなかったんだ! だから売上が上がらないんだよ!」と怒りながら、メモ帳を片手に店舗を回りはじめました。

 

最初の1軒目、まずは店頭の商品の価格をメモし、次に店内に入って目につくものの価格を調査していきました。

 

「これは飯田屋のほうが安いな。……でも、こっちは飯田屋のほうが高いな」

 

棚の上から順に価格をメモしていると、店の奥から「おまえ! 飯田屋のせがれだろう。同業者はうちの店に入ってくるな!」と、怒鳴り声をいきなり浴びせかけられたのです。

 

同業者どうしの暗黙のルールとして、価格調査はタブーだったのです。実際に店頭に大きく「同業者入店お断り」と看板を立てている店も少なくありません。

 

飯田屋の従業員たちはそのルールを熟知しており、近隣の店とトラブルにならないために価格調査をしていなかったのだと、後で知ります。僕は基本的なルールすらも知らないまったくの素人でした。

とはいえ、価格調査をやめるわけにはいきません。「かっぱ橋でいちばん安い店にしなければ、飯田屋に明日はない」と僕は思い込んでいました。

 

メモを持っていて目立つなら、価格調査をしていることがばれなければいいのです。すぐに思いつきました。ICレコーダーです。

 

さっそく隣町の秋葉原にある家電量販店で大容量のICレコーダーを購入すると、ニット帽に色つき眼鏡で顔を隠し、携帯電話で会話しているふりをしながら価格を読み上げて録音。店に戻って録音した価格をメモしていきました。

 

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浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

飯田 結太

プレジデント社

効率度外視の「売らない」経営が廃業寸前の老舗を人気店に変えた。 ノルマなし。売上目標なし。営業方針はまさかの「売るな」──型破りの経営で店舗の売上は急拡大、ECサイトもアマゾンをしのぐ販売数を達成。 廃業の危機に…

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