浅草かっぱ橋商店街の料理道具専門店は閑古鳥が鳴いていました。そこに1人のお客がやってきて、おろし金を手に取ると、「どれがいちばん軟やわらかい食感の大根おろしができるの?」と問いかけてきました。接客した6代目店主は実際におろし金を使い試食してもらいましたが、全然軟らかくありませんでした。「急いでいないから探しておいてくれよ」と宿題を出されたが…。本連載は飯田結太氏の著書『浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟』(プレジデント社)を抜粋し、再編集したものです。

割烹着姿の料理人が突きつけたある要望

日々の売上を追いかけていたある日のこと。神様は僕を見捨てませんでした。

 

なんと、僕に会いに来てくれたのです。

 

■一人目の神様は割烹着姿の料理人

 

その神様は、割烹着の大将の姿でご来店になりました。

 

大将は棚のおろし金を手にとると、「どれがいちばん軟やわらかい食感の大根おろしができるの?」と問いかけてきました。

 

これまで安く売ることにしか興味がなかったので、商品知識はまるでありません。それを安さで隠したくて、接客の必要がないセルフスタイルの店を目指していたからです。

 

自分の料理道具屋人生を変えてくれる神様がおろし金を買いにやってきたという。(※画像はイメージです/PIXTA)
自分の料理道具屋人生を変えてくれる神様がおろし金を買いにやってきたという。

 

でも、店内には閑古鳥が鳴いています。正直、暇でやることもありません。

 

「この人に付き合ってみるか……」と決めました。自分の料理道具屋人生を変えてくれる神様だなんて、このときはもちろん気づいていませんでした。

 

「申し訳ございません。ちょっとわからないので、もし時間があれば大根を買ってきますので、試してみますか?」とうかがうと、実際にすりおろしてみることになりました。

 

当時取り扱っていたおろし金は、大中小とサイズ違いの3種類のみ。すべて試してご試食いただくものの、「なんだよ、どれも軟らかくないじゃないかよ」と言われます。

 

自社で売っている道具を自分で使ってみた経験もないので、「そうか、どれも違うのか」とボーッとしていると、神様は僕に言います。

 

「なんだよ、自分のところの商品なのに、わからないで売ってんのか。まあいいや、急いでないから探しておいてくれよ」

 

その場で道具を試す店員が珍しかったのでしょうか、宿題にしてくれたのです。

 

安さだけが品揃えの基準で、道具なんてどれも同じと思っていた僕にとって、「軟らかい食感を出せるおろし金」という基準は新しいものでした。そして、「自分のところの商品なのに、わからないで売ってんのか」という言葉が頭にズシッと重く残りました。

 

単純な僕はやることができて嬉しくなり、さっそく料理道具カタログを開きました。

 

僕たち問屋はいくつもの商社やメーカーと取引があり、それぞれに拳ほども厚みのある商品カタログがあります。食器、メニュー帳、提灯、白衣など、それぞれのカタログから商品を選び、仕入れるのが一般的な方法です。

 

だから、おろし金もカタログを探せばすぐに見つかるだろうと安易に考えていました。

 

ところが、100種類以上ものおろし金が載せられ、一見しただけではそれぞれの特長がまったくわかりません。カタログを開いても、価格しか見てこなかったので、恥ずかしながら商品の機能面の差を比べた経験がなかったのです。

 

そこで、カタログを発行している商社に問い合わせてみると……。

 

「飯田さん、ごめん。さすがにおろし金がどんな食感になるかまでは詳しくわからないよ。メーカーさんを紹介するから問い合わせてみたらどう?」

 

「そうか、カタログに載せているからって使った経験があるわけじゃないから、仕方ないよな」と思いながら、おろし金メーカーに電話をかけました。

 

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浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

浅草かっぱ橋商店街 リアル店舗の奇蹟

飯田 結太

プレジデント社

効率度外視の「売らない」経営が廃業寸前の老舗を人気店に変えた。 ノルマなし。売上目標なし。営業方針はまさかの「売るな」──型破りの経営で店舗の売上は急拡大、ECサイトもアマゾンをしのぐ販売数を達成。 廃業の危機に…

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