(※写真はイメージです/PIXTA)

本記事は、西村あさひ法律事務所が発行する『金融ニューズレター(2021/8/4号)』を転載したものです。※本ニューズレターは法的助言を目的とするものではなく、個別の案件については当該案件の個別の状況に応じ、日本法または現地法弁護士の適切な助言を求めて頂く必要があります。また、本稿に記載の見解は執筆担当者の個人的見解であり、西村あさひ法律事務所または当事務所のクライアントの見解ではありません。

3.事業遂行者向けファイナンスの場合に想定されるストラクチャー

(1) ストラクチャー概要

 

事業遂行者向けのプロジェクトファイナンスとしての(陸上養殖)ストラクチャーは以下のようなものが考えられます。

 

 

 

①事業遂行者として特別目的会社(株式会社又は合同会社が一般的)を設立し、エクイティ投資家が事業遂行者に出資を行います。

 

②貸付人が事業遂行者にプロジェクトファイナンスローンを実行します。

 

③エクイティ投資家からの出資及び貸付人からのプロジェクトファイナンスローンを原資として、事業遂行者は養殖設備の底地の利用権設定契約、養殖設備の工事請負契約等、養殖設備の建設に必要となる各契約を締結し、養殖設備を所有します。

 

④事業遂行者は養殖業務委託契約、養殖設備のメンテナンス委託契約、飼料購入契約等、養殖設備の完工後のプロジェクトの運営に必要な各関連契約を締結します。

 

⑤養殖魚類が出荷可能となった場合、事業遂行者はオフテイカーに養殖魚類を売却し、当該売却代金を原資としてプロジェクトの運営費用の支払、プロジェクトファイナンスローンの弁済及びエクイティ投資家への配当を行います。

 

なお、養殖設備の建設期間についてはリードタイムが発生し、養殖設備の建設が遅延するリスクや想定していたプロジェクトコストで設備の建設が完了しないリスクが発生することとなります。また、養殖設備の設置場所は都市部からは遠隔地にあることも多く、(開発型不動産流動化案件のように)敷地価格に依拠しつつ建中ファイナンスを提供するというロジックは難しいと考えられます。現状では、かかるリスクを回避すべく、養殖事業者やスポンサーの信用に依拠したコーポレートファイナンスや、養殖事業者やスポンサーによるエクイティ出資により、建設期間中の資金調達が行われ、養殖設備完成後に融資を実行する例が一般的のようです。但し、養殖設備の建設業者のパフォーマンスや信用力・完工保証、建設期間中の保険の付保、エクイティ投資家のエクイティ出資の割合等を勘案のうえ、個別の案件に応じて建設期間中の融資実行を行うことも考えられます※2。むしろ、養殖事業者としては、建設業者への中間前払金など建設期間中に随時発生するプロジェクトコストの支払原資としてプロジェクトファイナンスローンの利用を期待するものと思われます。

 

※2 近年、数多く行われている再生可能エネルギー発電事業に係るプロジェクトファイナンス案件においても、建設期間中の融資が行われることが一般的です。
 

(2) セキュリティパッケージ

 

プロジェクトファイナンスにおける担保権は、主に①第三者がプロジェクトに必要な資産に担保権を設定したり、差し押さえたりすることによってプロジェクトに必要な資産が散逸し、プロジェクトの運営に支障を来すことを防ぐこと(いわゆる担保権の防衛的機能)及び②ステップインを確保することを目的として設定されます。従って、貸付人は当該プロジェクトに属する全ての重要な資産について担保権を設定することが一般的となります(いわゆる全資産担保の原則)。具体的には、以下の資産について以下のような担保権を設定することが考えられます※3

 

※3 不動産(養殖設備等)、船舶及びその附属設備並びに養殖設備に係る土地利用権をまとめて漁業財団を組成し、抵当権を設定することも考えられます(漁業財団抵当法第2条1項)。

 

※4 地位譲渡予約はステップインのために設定されるものであり、厳密には担保権ではなく、第三者に対抗することもできないと考えられます。実務上、設定の際にはプロジェクト関連契約の相手方の確定日付のある承諾を取得するのが一般的です。

次ページ4.アセット保有者向けファイナンスの場合に想定されるストラクチャー

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杉山 泰成
松本 直己
鈴木 健也

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