1―はじめに~ワクチン接種が加速しコロナ禍の出口が見える中で、生活者の予測や期待感は?
6月下旬から、新型コロナウイルスのワクチン接種が職域でも開始されたことで、医療従事者や高齢者に続き、現役世代でも接種者が増えている。足元ではワクチンの供給不足が課題となっているが、政府は今年の11月頃には希望者全員の接種完了を目指しており、1年以上続いているコロナ禍の出口が見えてきたようだ。
ニッセイ基礎研究所では、昨年6月から「新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」を継続的に実施している。7月上旬に実施した第5回調査※では、新型コロナウイルスのワクチン接種についての様々な意識に関する設問を新たに加えたため、いくつかのレポートで報告していきたい。
※調査時期は2021年7月、調査対象は全国に住む20~74歳の男女、インターネット調査、株式会社マクロミルのモニターを利用、有効回答2,582。
本稿では、ワクチン接種が進んだ後の消費行動や働き方などの状況についての予測や期待感について捉える。
2―ワクチン接種後の予測~約半数がコロナ前の外出行動を再開、約7割がマスク着用等が習慣化
調査では、ワクチン接種が進んだ後の消費行動や生活様式、働き方にについて、いくつかの観点をあげ、それぞれについて、どの程度そう思うかを尋ねている[図表1]。
まず、外食や旅行・レジャーなどの外出型の消費行動がコロナ前と同様になるかどうかについては、全体では、いずれも5割前後がそう思う(「そう思う」+「ややそう思う」)と回答している。つまり、生活者の約半数はワクチン接種が進むことで、外出型の消費行動が再開すると考えている。
ただし、行動によって、やや温度差がある。店舗での買い物や友人・知人と会うことについては、そう思う割合が比較的高く半数を超え、そう思わない割合(「あまりそう思わない」+「そう思わない」)が約1割を占める。一方、外食や旅行・レジャーについては、そう思う割合は45%程度で、店舗での買い物や友人・知人と会うことと比べて10%pt程度低く、そう思わない割合が約2割と高い。
この外出行動についての温度差の要因には、外食や旅行・レジャーなどは、より娯楽色の強い外出行動で不要不急の用事と見られやすいこと、また、ワクチンを接種しても感染リスクが完全に消えるわけではないため、感染リスクが比較的高い行動と見られることで、店舗での買い物等と比べて元に戻りにくいと考えられていることなどがあげられる。
生活様式や価値観等においては、マスク着用や社会的距離を取ることの習慣化について、実に約7割がそう思うと回答している。ウイルスとの戦いの出口が見えてきたとはいえ、多くの生活者はウイルスとの共存は続くと考えているようだ。
ワクチン接種済み証明の有無による差別や分断が生じることについては、約半数がそう思うと回答しているが、現在はワクチン接種進行の過渡期であり、今後、大多数が接種済みとなった時点では意識が変容している可能性もある。また、健康意識が高まり健康状態が良くなることや新たな感染症が流行することについては約3割がそう思うと回答している。
働き方においては、出張が減り遠隔地とのオンライン会議が増えることについては約半数が、出社が減りテレワークと併用した働き方が主流になることについては約4割が、コロナ前のように勤め先で飲み会等が実施されることについては約3割がそう思うと回答している。
遠隔地との会議はテレワークのメリットを活かしやすいために、通常業務と比べて、そう思う割合が比較的高いのだろう。
一方、通常業務については、医療や介護などテレワークが難しい業種もある上、テレワークが可能な業種であっても、現在のところ、出社とテレワークの最適なバランスを模索中の組織も少なくない。よって、遠隔地との会議と比べると、そう思う割合が下がるのだろう。
2020年は初めて日本国内で緊急事態宣言が発出され、様々な組織でテレワークへと大きく舵を切られた1年であったが、足元ではIT企業等でも社員同士の対面コミュニケーションによる協業から得られる価値などを再認識することによって、オフィス回帰の動きも見られる※。
※「オフィス再開で社員と綱引き 米IT大手、感染収束にらみ」日本経済新聞(2021/06/11)や「アフターコロナのオフィス 創造性発揮へ見直し相次ぐ」日本経済新聞(2021/7/4)の通り、アマゾンやグーグルではオフィス中心の文化へ回帰する動きもある。
また、コロナ前のように勤め先で飲み会等が実施されることについては、そう思う割合は約3割にとどまるが、先の感染リスクの問題に加えて、やはり大なり小なり働き方が変わることで、上司や同僚との付き合い方も変わると考えているのかもしれない。