「自国通貨安誘導」ができなかったギリシャ
日本が大不況に陥って政府が破産しそうだ、というときには、猛烈なドル買い介入をしてドル高自国通貨安誘導によって輸出を増やし、景気を回復させることが可能です。
通常時に自国通貨安誘導を行うことは国際的に認められないでしょうが、日本政府に破産されては世界経済が困りますから、破産を避けるという緊急避難的な目的であれば、国際社会もこれを認めるはずです。
しかし、ギリシャは自国通貨安誘導を行うことができませんでした。やはりドイツ等の賛成が得られなかったからです。
「紙幣の印刷」ができなかったギリシャ
日本政府が破産寸前になれば、最後の手段として「日銀に紙幣を印刷させてそれで借金をすべて返済する」ことが可能です。そんなことをしたらハイパーインフレになりかねないので、通常は禁じ手なのですが、背に腹はかえられないという場合には、断行するでしょう。
しかし、ギリシャは自国通貨の紙幣を印刷することができませんでした。これもドイツ等の賛成が得られなかったからです。
このように、ギリシャはユーロという通貨を使っているために、何かやろうとしてもドイツ等の賛成が必要であり、それが得られなかったので破産せざるを得なかったわけです。
日本は、日本だけの通貨を使っているので、上記のようなことをするために他国の賛成を得る必要がなく、日本単独で実行できるので、ギリシャと同じように日本も破産するかも、という考えには賛同できないのです。
とはいえ、外貨建て債務でないから助かった面も…
以上、ギリシャがドイツ等と同じ通貨を使っていたために困った、という話を書きましたが、ドイツと同じ通貨を使っていて助かった、という面も皆無ではありません。それは、ユーロという通貨で借金をすることができていたからです。
ギリシャが自国だけの通貨を使っていたら、外国から借金をする時には米ドル建てで借りていたはずです。ギリシャの通貨でギリシャ政府に金を貸したい投資家は外国には多くありませんから。
そうなると、ギリシャ政府が破産しそうだという噂によって人々がギリシャ通貨を米ドルに替える動きが、ギリシャ政府の致命傷になるわけです。人々のドル買いによってドルの値段が急騰し、対外債務の返済に必要なギリシャ通貨の量が急増してしまうからです。
そうでなくとも、外国の銀行に米ドルを返済するためにギリシャ政府が米ドルを買うことで、米ドルの値段が上がるため、返済すればするほど残りの返済がつらくなる、といったことにもなりかねません。
その意味では、ギリシャがドイツと共通の通貨を使っていたことが問題だったとはいい切れませんが、日本政府は自国通貨建てで借金をすることができていますから、その点でもギリシャとは事情が違うということは間違いないわけです。
今回は以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、このシリーズはわかりやすさを最優先として書いていますので、細かい所について厳密にいえば不正確だ、という場合もあり得ます。ご理解いただければ幸いです。
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塚崎 公義
経済評論家
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