看護師の妻が父の介護を引き受けたことで、同居が実現
今回の相談者は、50代会社員の山本さんです。山本さんは3人きょうだいの長男で、3歳下に弟、6歳下に妹がいます。きょうだいは全員結婚して家を出ていますが、いずれも実家に近居しています。
約7年前に父親が脳梗塞で倒れ、半身不随となってしまいました。高齢の母親だけでは面倒を見るのが大変なため、それまで2人暮らしの両親でしたが、長男の山本さんの家族と同居することにしました。
両親が暮らす実家も山本さんの自宅も、2家族が同居するには狭いため、それぞれの家を売却し、両親と山本さん夫婦、山本さんの長男の合計5人が暮らせる中古住宅を購入しました。土地は父親が1/5、山本さん夫婦が2/5ずつ、建物は父親が1/2、Aさん夫婦が1/4ずつという割合の共有名義としました。
山本さんが同居を決めたのは、長男として両親を看なければならないという責任感もありましたが、看護師をしている妻が「私がお義父さんの介護をする」と申し出てくれたことがいちばんの理由です。
妻は長年勤務していた総合病院を辞め、父親の介護に専念することになりました。母親も食事の用意などは手伝ってくれますが、70代後半という年齢もあり、父親の介護はほとんど山本さんの妻1人で行っています。弟と妹は近くに住んでいるものの、たまにしか顔を出さないうえ、父親の介護の交代を申し出てくれるようなことは皆無でした。
同居・介護への感謝はなく、権利ばかり主張する弟と妹
父親が亡くなったのは、同居して5年が経過したときでした。四十九日の法要を終えたあと、山本さんから話を切り出し、相続手続きや遺産分割の話合いをもちました。父親の財産は金額的に相続税の申告が不要ではありましたが、遺言書がないため、分割協議が必要でした。
山本さんは、自分たち夫婦が自宅を手放して両親と同居したこと、とくに妻は長年勤務してきた病院を辞めて父親の介護に尽くしたことから、自宅は自分が相続するのが当然だという考えをもっていました。それだけでなく、父親の介護をしてきた妻に対し、母親や弟、妹からは、感謝とねぎらいの言葉が出るものと思っていたのです。
ところが、現実は山本さんの想像とまったく違いました。
弟と妹はねぎらいどころか、両親が暮らしていた家の土地と建物にも自分たちの権利があると、切り口上で主張をはじめました。山本さんが独り占めするのはおかしいというのです。山本さんが期待した妻への感謝などみじんもなく、話し合いは紛糾。おしまいには全員が怒鳴り合う修羅場と化したのです。