「株価下落時に買い足し」は、初心者がはまる罠
株式投資をしていて、保有している株が下落した時、下がった価格でさらに買い増しをすることがある。これは「ナンピン買い」と言われる投資手法だが、株式相場の世界で40年以上仕事をし、多くの個人投資家の行動を見てきた筆者から言わせると、このナンピン買いは失敗に終わることが多い。
ナンピン買いが良いと言われるのは、初めに買った値段よりも安いところで買い増しすることによって、前の買値と合算して平均すれば購入コストが下がるため、元の買値に戻れば儲かるという考え方だからだ。
ナンピンというのは漢字で〝難平〞と書き、文字通り株価が下がったという災難を和らげるという意味が込められているのがわかる。ナンピン買いというのは一見、下がった時の合理的な投資行動に思えるのだが、実を言うとこれには投資初心者が陥りがちな心の罠が何重にも張りめぐらされている。
「ついナンピン買いをしてしまう」投資家心理、3つ
そもそも、なぜ人は自分の持っている株が下がるとナンピン買いをしたくなるのか。これにはいくつかの理由が考えられる。
①損をするのが嫌(損失回避の心理)
行動経済学の基礎的な理論であるプロスペクト理論によれば、人は誰もが損失回避的であるという。つまり損をするのが極端に嫌いなのだ。したがって、自分の買った株が下がった場合でも損失は先送りしたいという心理が働く。見通しが違ったと思ってもすぐにあきらめて売ることができないのだ。そこで売るのではなく、しばらく様子を見る。その後、さらに下がると、「買値よりかなり安くなったのだから、買い増しすればいい!」と自分を納得させる判断をしがちになる。
②自分の買値を基準にする(参照点依存性)
プロスペクト理論のもう一つの考え方である「参照点依存性」によって自分の買値(=参照点)を基準にしてしまうという傾向がある。本来売買の判断は、あくまでも現時点での株価が割高か割安かを基準に考えるべきなのだが、人は自分が買った値段を基準として、売りか買いかを判断しがちであることは前述した通りだ。つまり株価が下がった場合に自分の買値を参照点としてしまい、かつそれを絶対視するから下がったら単純に割安になったと勘違いしてしまうのだ。そこで安くなったのだから「買い!」とばかりに安心して買い増しをしてしまう。
③ コストを下げれば安心(認知的不協和の解消)
心理学には「認知的不協和」という考え方がある。自分が希望することがかなえられず、しかもその状況を自分の力では変えることができない場合に心の中で葛藤や不快感が生じる。この状態が「認知的不協和」である。そしてそれを何とか解消するために、自分の解釈や判断を変えることで心の折り合いをつけるのが「認知的不協和の解消」である。
株式投資で言えば、本来上がることを期待して買ったにもかかわらず、それが下がっている状態だ。自分の判断が間違っていたということを認めたくない。でも下がっているという事実を自分の力で変えることはできない。そこで、「ここで買えばコストが下がるから安心だ」と自分を納得させる理屈を考えてナンピン買いをしてしまうのだ。