※画像はイメージです/PIXTA

政府は最低賃金を平均3.1%引き上げることを決めました。コロナ禍での不況にあえぐ労働者の生活改善が狙いなのは当然ですが、同調する識者からは、国際的に見て低すぎる最低賃金の是正や、人材を安く使い倒そうという企業への圧となることを期待する声も上がっている模様です。しかし、ここは冷静に「まず賃上げありき」の理論がはらむ危うさを認識すべきだといえます。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。

「最低賃金引き上げ→労働移動」を促すには無理がある

論者のなかには、「低い賃金しか払えないような非効率な企業は、労働者を雇わなければいい。そうすれば、労働者が高い賃金の払える効率的な企業に移動するだろうから、日本経済が効率的になるはずだ」といっている人もいるようです。

 

最低賃金が上がれば、非効率な企業が雇用を減らすので、日本経済が効率化するはずだ、というのでしょう。

 

しかし、そうはならないでしょう。失業者がいるということは、効率的な企業はいまの賃金で雇いたいだけの人数を雇えているわけです。ということは、最低賃金が引き上げられて非効率な企業が雇用を減らしたとしても、減った分の雇用が効率的な企業によって吸収されることにはならないからです。

 

論者が「失業した人に対しては政府が責任を持って職業訓練をして、次の好況時に優秀な労働力として効率的な企業で高い賃金で雇われるようにしてあげるべきだ」というのであれば、それは筆者も納得です。

 

しかし、そのために最初に必要なのは、現在すでに失業している人に対する職業訓練の実施であって、それができてから新たに失業者を「作り出す」という手順を踏むことが必要です。

 

受け皿もないのに失業者を作り出したら、悲惨な結果となるだけです。まずは政府に、現在の失業者に対する職業訓練制度の充実を期待しましょう。

「ほかの先進国並みの賃金に」という理論がダメなワケ

日本の賃金が他の先進国より低いから日本の賃金を引き上げるべきだ、という論者もいるようですが、それも違うでしょう。

 

日本の賃金が低い一因は、為替レートが円安すぎることです。国際比較する際に為替レートで換算するため、日本の賃金が低く見えてしまうわけです。そうだとすれば、賃金が外国より安いことは気にする必要がありません。生活費も安いわけですから。

 

日本の賃金が低いもうひとつの理由は、バブル崩壊後の長期低迷期にゼロ成長が続いていたからです。これは、残念なことに日本が相対的に貧しい国になってしまったということであって、賃金を上げれば解決するという問題ではありません。

 

パイが拡大しないのに賃金引き上げで切り分け方(労働者と企業の間の分配)を変えるだけでは、問題の本質的な解決にならないのです。もっと根本的に、経済成長率を高めて日本のGDPを増やし、パイを拡大することが必要なのです。

 

それには、景気対策をしっかり行って労働力不足の状態を作り出し、企業が省力化投資に注力するように仕向ける事が必要なわけで、最低賃金引き上げで労働力を余らせるのは逆効果ですね。

 

 

今回は、以上です。なお、本稿は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織等々の見解ではありません。また、わかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。

 

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塚崎 公義

経済評論家

 

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