「家賃滞納は普通の人が堕ちる破滅への入り口である。」……2500件以上の家賃滞納トラブルを解決してきた、OAG司法書士法人代表の太田垣章子氏。同氏は書籍『家賃滞納という貧困』(ポプラ社)のなかで、その悲惨な実態を明かしている。
事故か、徘徊か…「超高齢化社会日本」の恐ろしい実情
この後、住んでいた公営住宅にも、美子さんはずっと戻っていません。こちらの方も家賃を滞納している状態とのことでした。美子さんはいったいどこに行ってしまったのでしょう。
考えられるのは、何らかの事故に遭ったけれど身元の分かるものを携帯していなかったのか、認知症等で徘徊して保護されているのか。どちらにしても美子さんは、ある日忽然と姿を消しました。
実は全国の高齢者の施設では、認知症になった方がたくさん保護されています。名前や連絡先等も分からないため、対応のしようもなく、大きな社会問題となっています。
個人情報保護法が施行され、個人の情報が得にくくなっていることも、この問題に拍車をかけています。個人情報の保護にはもちろん利点もありますが、こと高齢者のサポートには逆効果になっている側面もあります。兄弟姉妹の数も減り、親族関係が希薄になっている現代は、手のうちようがない案件が爆発的に増えています。
近い将来に超高齢化社会に突入する日本。家族や親族が高齢者の世話をしたり、看取ったりする時代ではなくなりました。国や行政がある一定の権限をもって介入・サポートするようにならなければ、このような問題は激増していくばかりだと思います。
家族がいてもいなくても、人は誰にも迷惑をかけずに万全の状態で亡くなることは難しいのが現実です。だからこそ地域が、社会が関わらなければならない問題なのです。
※本記事で紹介されている事例はすべて、個人が特定されないよう変更を加えており、名前は仮名となっています。
太田垣 章子
OAG司法書士法人代表 司法書士
OAG司法書士法人代表 司法書士
株式会社OAGライフサポート 代表取締役
30歳で、専業主婦から乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。
登記以外に家主側の訴訟代理人として、延べ2500件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。
トラブル解決の際は、常に現場へ足を運び、訴訟と並行して賃借人に寄り添ってきた。決して力で解決しようとせず滞納者の人生の仕切り直しをサポートするなど、多くの家主の信頼を得るだけでなく滞納者からも慕われる異色の司法書士でもある。
また、12年間「全国賃貸住宅新聞」に連載を持ち、特に「司法書士太田垣章子のチンタイ事件簿」は7年以上にわたって人気のコラムとなった。現在は「健美家」で連載中。
2021年よりYahoo!ニュースのオーサーとして寄稿。さらに、年間60回以上、計700回以上にわたって、家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」に関する講演も行う。貧困に苦しむ人を含め弱者に対して向ける目は、限りなく優しい。著書に『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』『老後に住める家がない!』(どちらもポプラ新書)がある。
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