「家賃滞納は普通の人が堕ちる破滅への入り口である。」……2500件以上の家賃滞納トラブルを解決してきた、OAG司法書士法人代表の太田垣章子氏。同氏は書籍『家賃滞納という貧困』(ポプラ社)のなかで、その悲惨な実態を明かしている。
ドアノブには埃、郵便物は溜まったまま…
本人欠席のまま明け渡しの判決が住んでいる公営住宅に行くと、集合ポストには郵便物が溜まっているものの、住んでいるのかそうでないかは分かりません。管理人さんに確認すると、ここしばらく顔を見ていないが、今までも旅行等で月単位で留守にされることがあるので、心配はしていないとのこと。室内に立ち入ることも、事件性(悪臭がする等)がない限りできないとのことでした。
仕方なく美子さんに対して、家賃滞納の明け渡しの訴訟を提起しました。
その後も気になって何度も公営住宅の方に行ってみても、美子さんには会えません。そして回を重ねるごとに、美子さんはこの部屋に帰っていない、と確信してきました。
部屋のドアノブには埃が溜まり、郵便物は取り除かれておらず、そして何より、ドアにつけた目張りが外れていないのです。
結局、訴訟の日まで美子さんとは会えませんでした。訴状も受け取られることはなく、裁判の日も美子さんは欠席。明け渡しの判決が言い渡され、荷物置き場だった部屋は強制執行となりました。
部屋の中には、小さな頃のアルバムや、古い着なくなった洋服、使わない食器や家電が所せましと乱雑に置かれていました。アルバムはいざ知らず、他の物は大事にとっておかなくてもよさそうなものです。高齢になって、自分で片づけるだけの気力や体力がなくなり、家賃を払ってでも放置しておきたかったのでしょう。
司法書士、賃貸不動産経営管理士、合同会社あなたの隣り代表社員
司法書士、賃貸不動産経営管理士、合同会社あなたの隣り代表社員。30歳で生後6か月の長男を抱えて離婚、働きながら6年の勉強を経て2001年に司法書士試験合格。2006年に独立、2012年に事務所を東京へ移転し、2024年5月よりコンサルティングと情報発信を軸に現職へ。家主側の訴訟代理人として家賃滞納の明け渡し手続きを延べ3,000件近く担当し、現場重視で滞納者の再出発にも伴走する“賃貸トラブル解決のパイオニア”として知られる。「住まいは生きる基盤」を掲げ、“人生100年時代における家族に頼らないおひとりさまの終活”を提言。全国賃貸住宅新聞での長期連載をはじめ、現代ビジネスなど各種媒体に寄稿し、年間60回超・累計700回超の講演で実務と制度の接点をわかりやすく伝えている。著書に『家賃滞納という貧困』、『老後に住める家がない!』、『不動産大異変』、『あなたが独りで倒れて困ること30』(すべてポプラ社)、『死に方のダンドリ』(共著、ポプラ社)などがある。
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