大きな政府を必然とする要因(2)
■潤沢な貯蓄と需要不足
コロナパンデミックが起きる前から世界経済は、物価低下圧力=需要不足と金利低下圧力=金余りという二つの問題を抱えていた。
先進国経済の3分の1で長期金利がマイナスに陥るという異常事態にあった。またデフレによる経済成長の下方屈折という危機が進行していた。
需要不足はグローバリゼーションの進展とインターネット・AI・ロボットによる技術革命により生産性が押し上げられ、供給力が高まっていたために引き起こされた。金利低下は民間(特に企業と富裕層)の高利潤が遊んでいるために引き起こされた。
つまるところデフレ圧力と異常低金利は、尋常ではない貯蓄(=購買力の先送り)と需要不足によってもたらされた。そうした環境は、ケインズが直面した1930年代の世界大恐慌下の経済状態と類似している。
金利低下が臨界点に達し貨幣選好が極端に進み、金融政策が無能化する「流動性の罠」が典型的症状である。当時と同様、財政による需要創造が強く求められる場面と言える。
よってコロナパンデミックが起きようと起きなかろうと、財政と金融双方の拡張政策で余っている資金を活用し、需要を喚起することが必要であった。
財政節度という今の時代に全く適合していない呪文から解き放たれることは、本来最も必要なことであった。大恐慌が「ゆりかごから墓場まで」の近代的社会保障制度の起点になったように、コロナパンデミックが社会的セーフティーネットの飛躍的拡充、ユニバーサル・ヘルスシステムの登場、ユニバーサル・ベーシックインカムの時代を開くかもしれない。
財政赤字の処理、大膨張する中央銀行信用の処理、中央銀行の独立性の維持等、多くの懸念が指摘されるが、コロナ危機終息の後になってみなければ本当に問題であるかどうかわからない。
むしろ成長の加速が問題をおのずから解消するという可能性の方が大きいのではないか。これまでの経済常識の観点から、空前の財政赤字はモラルハザードを引き起こし、インフレや金利上昇など禍根を残すとの批判が語られている。しかし現実は全く逆ではないか。
レーガン・サッチャー以降の新自由主義の時代においては、供給力不足と貯蓄不足が経済のボトルネックであり、インフレが最大の経済リスクと考えられていた。故に新自由主義の経済学はサプライサイドの強化に注力するサプライサイダーであった。
しかしここ10年来の世界的な低金利は、貯蓄が豊富で、需要が慢性的に弱いことを示している。ということは、財政赤字がダメージをもたらすことはなく、むしろ必要であるというべきなのかもしれない。
経済学と経済政策の軸が明らかにディマンドサイドにシフトしつつあるといえる。経済学者でもあるイエレン米財務長官は「歴史的低金利の現在、大規模な経済対策は雇用と経済成長を加速し、恩恵がコストを大きく上回る」と主張し、米国の大半のエコノミストの支持を得ている。
これまで貯蓄不足を懸念し財政赤字を厳しく批判してきたIMF、世銀などの国際機関も主張を大きく転換させている。政府債務に対する考え方は大きく変わってきた。
(ロイター1月21日付ハワード・シュナイダー記者コラム)。
イエレン次期財務長官の宣言は、この異端視されてきたMMTなどの議論をワシントンの政策中枢に招き入れたものと言ってよいだろう。
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