(写真はイメージです/PIXTA)

本連載は、武者リサーチが2021年7月13日に公開したレポートを転載したものです。

米国が「大きな政府」を必然とする3つの要因

バイデン政権が登場し、大きな政府への流れが決定的になった。この急旋回は、コロナが原因となって起きたものではなく、コロナは単にきっかけに過ぎない。

 

底流で進行していたレジーム転換が一気に表面化したものと考えられるので、この流れは不可逆的なものであろう。賢い政府が今ほど求められる時はない。

 

大きな政府を必然とする3つの要因がある。

 

第一は米中覇権争いである。国家資源を総動員する中国の専制主義に対抗するには、米国も政府の強力なイニシャティブを確立しなければならない。

 

第二に経済学と経済政策が直面している課題の大転換がある。これまでの新古典派的経済政策を正当化してきた供給力不足がインフレをもたらすという命題が後退し、代わって需要不足がデフレをもたらす命題が前面に現れたという現実がある。

 

レーガン・サッチャー時代以降支配的であった新自由主義(ネオリベラリズム)的常識、小さな政府信仰つまり財政赤字回避、規制緩和と産業や市場への国の介入回避、等の見方はあっさり捨て去られつつある。代わって大きな政府を柱とする、いわば「新ケインズ主義」が前面に出てきた。

 

第三にグローバルなハイテク産業と技術での競争において、政府の支援は決定的に重要になっている。古典的自由貿易は役に立たない建前と化し、WTOも形骸化が著しい。

 

その理由は、半導体などのハイテク産業は初期投資と過去の履歴効果が決定的に重要な収穫逓増産業であり、国家による産業政策、通商管理がその国の企業競争力に致命的重要性を持っていることである。

 

[図表1]先進国・新興国の政府債務対GDP比率の推移
[図表1]先進国・新興国の政府債務対GDP比率の推移

 

大きな政府の時代の到来に投資家はどう対処するべきか、3つの投資への含意を指摘したい。

 

第一は大きな政府であるが、バイデン政権のそれはあくまでも社会主義ではなく資本主義であるということ、最後は資本の合理性(資本リターンと資本コスト)が趨勢を決めることに変わりはない。政府の支援はあくまでも企業のボトムラインにポジティブに働きかけることで結果をもたらそうということである。

 

第二に現代世界経済の基礎的インバランス、貯蓄余剰と需要不足は解消に向かい、物価上昇率の高まりと長期金利の上昇がもたらされ、1980年代から続いた金利低下とドル安の時代は終焉していくだろう。

 

第三に米国株価の上昇は続くが、年率5~10%程度の抑制的なものとなるだろう。ケインズ政策の導入、長期金利の底入れは第二次大戦直後の1949年ごろとよく似た環境である。米国株式はケインズ政策が導入された1950~60年代に大きく上昇した。

 

ただ株式バリュエーションは当時とは大きく異なる。1949年W・バフェットの師匠であるベンジャミン・グレアムが『賢明なる投資家』を著わし、株式が絶対的割安水準にあると述べた時(PER7倍、益回り15%、長期金利2.5%)とは大きく異なる。米国株式は上昇基調ながら抑制的だろう。

 

[図表2]米国長期金利の歴史的推移
[図表2]米国長期金利の歴史的推移

 

[図表3]米国株式益回り、社債利回り、配当利回りの長期推移
[図表3]米国株式益回り、社債利回り、配当利回りの長期推移

 

杉原 杏璃 氏登壇!
「THE GOLD ONLINE フェス 2025 @東京国際フォーラム」
(入場無料)今すぐ申し込む>>

次ページ経済常識が急変…バイデン氏が舵を切る大きな政府

本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサーチは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向について、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確認を行うものではありません。

人気記事ランキング

  • デイリー
  • 週間
  • 月間

メルマガ会員登録者の
ご案内

メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

メルマガ登録