(※写真はイメージです/PIXTA)

「家賃滞納は普通の人が堕ちる破滅への入り口である。」……2500件以上の家賃滞納トラブルを解決してきた、OAG司法書士法人代表の太田垣章子氏。同氏は書籍『家賃滞納という貧困』(ポプラ社)のなかで、その悲惨な実態を明かしている。

「裁判所です。鍵開けますよ」…中流以上の生活が一転

かつて一億総中流社会と言われていた日本。

 

がんばれば家が持て、マイカーまでも所有できました。雇用も安定し、将来の不安もなかったのではないでしょうか。勤め上げれば、退職金も年金も当たり前のようにもらえ、老後に孫たちを引き連れての旅行だって楽しむことができました。

 

しかしバブルが崩壊し、日本経済は大きく変化していきました。大企業が倒産する時代。年金も受給年齢は先送りとなり、金額だってこの先どれだけ受け取ることができるのか不明です。定年の年齢も引き上げられてきましたが、年金受給までの空白の期間もあります。

 

人生100年の時代。反面、長い老後のための資金が足りません。働ける間は少しでも働きたい。多くの人がそう思っているはずです。それでも国民の多くは、自分が貧困と紙一重のところにいるとは思っていません。

 

相馬理香さん(以下すべて仮名、29歳)も、そのひとりでした。

 

その日、彼女は2歳になる娘と、いつものように部屋で遊んでいました。幼稚園に通うようになるまでの、母と子とのゆったりとした時間。穏やかなひとときでした。

 

「裁判所です。相馬さん、いらっしゃいますか?」

 

突然インターホンが鳴りました。裁判所? 何かの間違いだろうし、鍵を開けるのが怖かったのでしょう。ヘンな詐欺商法だったら怖いから…。理香さんは、インターホン越しに息を潜めました。

 

またインターホンが鳴ります。

 

「裁判所です。相馬さん、いらっしゃいませんか? 鍵開けますよ」

 

同時にドアが引っ張られ、がちゃがちゃとノブが鳴る音が聞こえました。怖い!そう思った次の瞬間、見知らぬ男がドアの鍵を開けたのです。

 

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    太田垣 章子

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