肝臓がん末期の妻が車いすの認知症夫を在宅介護して下した決断 (※画像はイメージです/PIXTA)

生き方に正解がないように、逝き方にも正解はありません。ただ、最期のときだからこそ、「その人らしさ」が現れると年間100人以上を看取る在宅医は語ります。認知症で車いす生活をしているご主人の面倒をみていた肝臓がん末期の75歳のA子さんの生き方(=逝き方)とは…。本連載は中村明澄著『「在宅死」という選択』(大和書房)より一部を抜粋し、再編集した原稿です。

自分が動けるうちは、夫の世話を

■「誰かの役に立っていたい」潔く死を受け入れた人の最期

 

在宅医として医療に携わるようになってから、10年が経ちました。年間100名以上のさまざまな方の最期の時間に関わる中で、生のあり方、死のあり方について、日々、たくさんのことを教えていただいています。

 

生き方に正解がないように、逝き方にも正解はありません。ただ、最期のときだからこそ見える「その人らしさ」というものがあります。逝き様は、まさにその方の生き様なんだなぁと思います。ここでは、私が日々たくさん教わってきたことをみなさんにお伝えしていきたいと思います。

 

お一人目は、肝臓がん末期のA子さん75歳のお話です。

 

KuKuRu(当院併設の緩和ケア施設)に来るまでは、A子さんのほうが、認知症で車椅子生活をしているご主人のお世話をしていました。

 

これ以上の治療は困難で、残された時間は数か月とご自分の病状をよく理解していました。その上で「自分が動けるうちは、夫の世話をしたいから」とおっしゃって、在宅医療を受けながら、ご主人の面倒をみていたのです。

 

いよいよ、ひとりでは動けなくなってきたという頃、私が訪問診療に伺うと、A子さんはご主人にこう話しました。

 

「私、もうお家は無理だわ。あなた、申し訳ないけど専門の人に入ってもらって、面倒みてもらってね。私は施設に行くわ」と、それはもう潔い決断でした。こんなにも最期を潔く受け入れる方がいるのだと、感動しました。

 

KuKuRuにいらしたあとも、お見舞いに来たご主人の足を揉んだりと、ふたりの時間を大切に過ごしていました。

 

私がお部屋を訪れると、A子さんは「もうすぐお迎えだと思うけど、ここまでずっと幸せだったし、今もとても幸せだわ」とたびたびおっしゃっていました。

 

「どうしてそんなふうに思えるんですか?」と尋ねても、ただただ「だって本当に幸せだったもの」とおっしゃるばかり。何か特別な信仰があるわけでもなく、日々をつつがなく過ごせていることにただ感謝し、施設のスタッフにも、いつも「ありがとう、ありがとう」と声をかけてくれる方でした。

 

「死んだあとどうしてほしいかも、もうぜんぶ伝えたから、あとは先生、苦しくないようにお願いしますね」

 

そうにっこり笑うA子さんは、まるで悟りを得た人のようでした。

 

在宅医療専門医
家庭医療専門医
緩和医療認定医

2000年東京女子医科大学卒業。国立病院機構東京医療センター総合内科、筑波大学附属病院総合診療科を経て、2012年8月より千葉市の在宅医療を担う向日葵ホームクリニックを継承。2017年11月より千葉県八千代市に移転し「向日葵クリニック」として新規開業。訪問看護ステーション「向日葵ナースステーション」、緩和ケアの専門施設「メディカルホームKuKuRu」を併設。緩和ケア・終末期医療に力をいれ、年間100人以上の患者の方の看取りに携わっている。病院、特別支援学校、高齢者の福祉施設などで、ミュージカルの上演をしているNPO法人キャトル・リーフも理事長として運営。著書に『「在宅死」という選択 納得できる最期のために』(大和書房)がある。

著者紹介

連載「在宅死」という選択で自分らしい生き方と逝き方を探る

「在宅死」という選択~納得できる最期のために

「在宅死」という選択~納得できる最期のために

中村 明澄

大和書房

コロナ禍を経て、人と人とのつながり方や死生観について、あらためて考えを巡らせている方も多いでしょう。 実際、病院では面会がほとんどできないため、自宅療養を希望する人が増えているという。 本書は、在宅医が終末期の…

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