(※写真はイメージです/PIXTA)

Appleのスティーブ・ジョブズが、文字のアートであるカリグラフィーをプロダクトに活かしていたことは有名だ。マーク・ザッカーバーグがCEOをつとめるFacebook本社オフィスはウォールアートで埋め尽くされている。こうしたシリコンバレーのイノベーターたちがアートをたしなんでいたことから、アートとビジネスの関係性はますます注目されているが、実際、アートとビジネスは、深いところで響き合っているという。ビジネスマンは現代アートとどう向き合っていけばいいのかを明らかにする。本連載は練馬区美術館の館長・秋元雄史著『アート思考』(プレジデント社)の一部を抜粋し、編集したものです。

社会を創造し、動かしていく実践的な活動

ボイスとコヨーテとの間で繰り広げられた時間は、ときに儀式的にも見える、不可思議な時間でした。時がすぎると今度は逆にギャラリーからどこにも立ち寄らずに空港へと向かい、ドイツに帰国してしまいます。コヨーテとの時間以外は、まったくアメリカに興味を持たず、一切を見ずに立ち去ります。

 

通常の視点からでは、意味を汲み取ることが困難なパフォーマンス行為は、タイトルとの関係から、60年代のアメリカ社会を強く批判したものとして受け止められています。しかし、その極端な行動の理由を誰も知るわけではなく、様々な解釈を生みました。

 

ボイスは自らの行動でアート表現をした人ですが、それだけでなく、社会的な影響力も行使しました。自由国際大学の開設によって大学の教育現場に関わり、たくさんの学生を育成しています。また緑の党の結党に関与するなど、政治の場にも積極的に介入していきました。

 

大学の開設や政治への関与など、社会活動を「社会彫刻」と呼び、芸術活動であると主張したという。(※画像はイメージです/PIXTA)
大学の開設や政治への関与など、社会活動を「社会彫刻」と呼び、芸術活動であると主張したという。(※画像はイメージです/PIXTA)

 

大学の開設や政治への関与など、こういった社会活動を「社会彫刻」と呼び、芸術活動であると主張しました。ボイスにとって、芸術行為とは、政治や経済と同様に社会を創造し、動かしていく実践的な活動なのです。

 

一見、アクティビストと見紛うような芸術活動を行うアーティストがボイスに後続し、ハンス・ハーケ、艾未未などの、政治批判をアート活動として位置づけるアーティストの流れをつくりました。まさに社会改革や革命の思想に直結したアートを実践した人です。

 

アートと政治を接近させていくという考え方は今日まで引き継がれていて、アーティストの活動だけでなく、展覧会を組織するキュレーションの場にも持ち込まれています。今年開催され、社会問題にまでなった津田大介監督の「あいちトリエンナーレ2019」の一部として行われた「表現の不自由展・その後」も、形式としては、ボイスから始まる政治、社会活動としてのアートの文脈で読み解かれるべきものになるでしょう(本文は、2019年8月31日に書かれました。状況が変化しているために、念のため執筆時期を明記しました)。

 

従軍慰安婦像として知られる《平和の少女像》(金運成、金曙p・E作)や焼かれた昭和天皇像《焼かれるべき絵》(嶋田美子・作)の展示など、ショッキングで論争を生む展示をあえて行っているわけです。ただ展示三日であえなく中止になったのは、脅迫めいた嫌がらせ行為があったとはいえ、少々腰砕けといえなくもないでしょう。

 

たとえ政治的な内容であっても、それをアートの場において公開しているからには、アートを通して討議が開始されるべきで、それに対する了解がつくれなかったという点で主催者側の説明不足も問われます。

 

アートの場とは、一種の「自治区」「自由空間」として機能すべきで、それが継続できるように主催者も観客も配慮すべきなのです。出品作家の中から出品の辞退が出たり、「あり方検証委員会」が設置されるなど、開催から多くの課題が残された展覧会です。

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アート思考

アート思考

秋元 雄史

プレジデント社

世界の美術界においては、現代アートこそがメインストリームとなっている。グローバルに活躍するビジネスエリートに欠かせない教養と考えられている。 現代アートが提起する問題や描く世界観が、ビジネスエリートに求められ…

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