下層階に商業施設が入っているタワーマンション。便利な反面、管理の難しさが問題になります。作家の山岡淳一郎氏の『生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて』(岩波新書)より、マンションの管理問題について一部抜粋・編集し、解説します。

「管理規約を改められない縛り」の内容とは

議決権の比率が、住宅部会45パーセントに対し、施設部会55パーセントと決められていたのです。地下1階から4階の施設部会のほうが、5階から30階の圧倒的多数の住民よりも議決権をたくさん持っています。これも、にわかには信じられない決まりです。

 

区分所有法には「各共有者の持分は、その有する専有部分の床面積の割合による」とされています。ほとんどのマンションは各区分所有者が持つ住戸1戸につき1票の議決権を定めています。なぜ、このような少数派が多数派に優越する議決権になっているのか。私も釈然とせず、マンションを分譲した横浜市住宅供給公社に疑問をぶつけました。

 

「都市再開発法で(分譲されるより先に開発主体が管理規約を定めるのは)認められています」と短い答えが返ってきただけでした。おそらく、超高層マンションの床面積ではなく、もともと地権者が所有していた底地の広さを考慮して、このような配分にしたのでしょう。

 

地権者は数十人、マンション住戸は300、約1000人が生活しています。どちらの権利が重いのか。NPOかながわマンション管理センター理事長・松野輝一氏は指摘します。

 

「市街地再開発組合が事業を施行している間は、地権者の土地の持ち分で権利を決めていいんですよ。問題ない。でも、マンションが完成して区分所有建物になれば、区分所有法の考え方に切り替えなくてはいけない。それができていない。これだけの数の人が区分所有者で入って住んでいるのだから議決権に反映されなくてはおかしい」

 

上大岡のタワーマンションでは住宅部会と施設部会が折り合わず、外壁の大規模修繕は5階以上で実施されました。低層の商業施設は遅れて外壁の修繕を行っています。住宅部会の施工を管理した一級建築士は、工期11カ月、費用4億5000万円をかけた修繕工事の苦労をふり返ります。

 

「事前に問題点を全部洗いだして、1つずつクリアしました。低層の商業施設の敷地は工事に使えませんから、ゴンドラなどの機材は、店舗の営業が終わり、バスの運行が止まった深夜から明け方にかけて、目の前の幹線道路のバス停からクレーンで吊って5階の屋上に搬入しました。バス会社、電鉄、警察、各方面に連絡して許可を取るだけでも一苦労です。4階と5階の間の商業施設と住宅の境界も曖昧だったので、工事を進めながら、一々確認をして明らかにしました。とにかく、対話と連絡、調整に忙殺されましたね」

 

市街地再開発で建設された超高層マンションのほとんどは、低層に店舗や事務所が入っています。元地権者の権利床です。彼らと新たに入った住民の権利のバランスは取れているでしょうか。不均衡だと、将来、維持管理が停滞し、空室率が高まると管理費や積立金の使い方、対処法をめぐって亀裂が生じてしまうのです。

 

 

山岡 淳一郎

ノンフィクション作家

東京富士大学客員教授

 

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生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて

生きのびるマンション 〈二つの老い〉をこえて

山岡 淳一郎

岩波書店

建物の欠陥、修繕積立金をめぐるトラブル、維持管理ノウハウのないタワマン……。さまざまな課題がとりまくなか、住民の高齢化と建物の老朽化という「二つの老い」がマンションを直撃している。廃墟化したマンションが出現する…

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