(※写真はイメージです/PIXTA)

一戸建てよりもマンションを選ぶシニア層が増えています。築年数の経過したマンションほど70歳以上の割合が高くなりますが、災害時の安否確認等や孤独死発見の遅れなど、管理組合は苦慮しているのが現状です。年金への不安から、賃貸戸数の増加も生んでいます。お金をかけない地域コミュニティ形成や、マンションを取り巻く現況について見ていきましょう。※本連載は、松本洋氏の著書『マンションの老いるショック!』(日本橋出版)より一部を抜粋・再編集したものです。

マンションの「お金をかけないコミュニティ形成」工夫

「平成30年度マンション総合調査」では、平成25年度と平成30年度を比較すると70歳以上の割合が増加する一方、30代以下の割合が減少しています。

 

平成11年度から平成30年度の変化をみると、60代、70代以上の割合が増加、50代以下の割合が減少しており居住者の高齢化の進展が進んでいて築年数が経過しているマンションほど70歳以上の割合が高くなっていて70歳以上の割合47.2%になっていることが報告されています(図表1,2)。

 

出典:国土交通省平成30年度マンション総合調査
[図表1]マンション居住の状況 出典:国土交通省平成30年度マンション総合調査

 

 

出典:国土交通省平成30年度マンション総合調査
[図表2]30年度マンション総合調査世帯主の年齢 出典:国土交通省平成30年度マンション総合調査

 

高齢者がお元気なうちは良いですが、高齢者の定住が増えるにつれて病気になった際の対処や災害時の安否確認等の必要性や孤独死で発見が遅れるなど管理会社、管理組合も高齢者の対応には苦慮しているのが現状です。

 

近年、少子高齢化の進行や高齢者のみの世帯の増加、さらに地域コミュニティ自体が希薄化している中で、世代間交流がない高齢者の方は地域内で孤立する傾向が強く、このことが緊急に生活支援を必要とする状態になってからの高齢者の発見や、孤立死の増加など、社会的な問題となっています。

 

2004年の標準管理規約改正でコミュニティ条項が追加され、「地域コミュニティに配慮した居住者間のコミュニティ形成に要する費用」が管理費を支出することが可能になりました。

 

しかしながら、「地域コミュニティに配慮した居住者間のコミュニティ形成に要する費用」の定義が曖昧であることから費用の使い道においてトラブルになり裁判で争う事案が多くなりました。

 

コミュニティ形成という言葉が一人歩きをして、理事会が終わった後に管理組合役員が飲み会を行いその費用を管理費から支出することや、管理組合で主催するクリスマスパーティーやハロウィン、新年会もマンション外部に居住している組合員もいて全部の組合員が参加していなのにその費用を全額管理組合から支出することが問題になりました。

 

また、組合員から強制徴収している管理費を加入が任意である親睦団体の自治会費に支出することも議論されました。

 

本来の管理組合の業務であるマンションの共用部分の維持管理とは違う目的で支出されていることが問題になったのです。

 

こうしたことから、2016年3月に標準管理規約が改正されてコミュニティ条項が削除されました。

 

改正された標準管理規約第32条関係コメント⑧

 

⑧従来、第十五号に定める管理組合の業務として、「地域コミュニティにも配慮した居住者間のコミュニティ形成」が掲げられていたが、「コミュニティ」という用語の概念のあいまいさから拡大解釈の懸念があり、とりわけ、管理組合と自治会、町内会等とを混同することにより、自治会的な活動への管理費の支出をめぐる意見対立やトラブル等が生じている実態もあった。

 

一方、管理組合による従来の活動の中でいわゆるコミュニティ活動と称して行われていたもののうち、例えば、マンションやその周辺における美化や清掃、景観形成、防災・防犯活動、生活ルールの調整等で、その経費に見合ったマンションの資産価値の向上がもたらされる活動は、それが区分所有法第3条に定める管理組合の目的である「建物並びにその敷地及び附属施設の管理」の範囲内で行われる限りにおいて可能である。

 

なお、これに該当しない活動であっても、管理組合の役員等である者が個人の資格で参画することは可能である。以上を明確にするため、区分所有法第3条を引用し、第32条本文に「建物並びにその敷地及び附属施設の管理のため」を加え、第十五号を削除し、併せて、周辺と一体となって行われる各業務を再整理することとし、従来第十二号に掲げていた「風紀、秩序及び安全の維持に関する業務」、従来第十三号に掲げていた「防災に関する業務」及び「居住環境の維持及び向上に関する業務」を、新たに第十二号において「マンション及び周辺の風紀、秩序及び安全の維持、防災並びに居住環境の維持及び向上に関する業務」と規定することとした。なお、改正の趣旨等の詳細については、第27条関係②〜④を参照のこと。

 

こうしたことから築年数の経過した高齢者の一人暮らしの多いマンションでは、マンションの実情を理解している自治会やマンションの方々が主体となった見守り活動を展開しているマンションも多くあります。

 

居住者に高齢者が多いマンションでは、その地域の行政機関「地域包括センター」を核とする地域見守りネットワーク構築が必要だと思料します。

 

真夏にエアコンをきかせたマンションの集会室を高齢者の居住者に無料で開放して大画面テレビで高校野球観戦をしたり、1960年~1970年代の映画のDVDで映画観賞会を開催して熱中症対策に取り組んでいるマンションもあります。

 

また、高齢者と子供の交流に積極的に取り組んでいるマンションもあります。高齢者と子供が交流することで、子供は礼儀作法や歴史を学び高齢者は、新しい役割ができて生きる張りを持つことができるからです。

 

工夫次第でお金をかけないコミュニティ形成をはかることが可能です。

 

その基本となるのが、住民同士の挨拶であり、マンション管理組合で「挨拶運動」を積極的に取り組むことが必要です。そこから顔見知りになり助け合いの精神が育まれます。

 

次ページ年金不安から老朽マンションの「賃貸戸数」が増加

あなたにオススメのセミナー

    マンションの老いるショック!データから学ぶ管理組合運営

    マンションの老いるショック!データから学ぶ管理組合運営

    松本 洋

    日本橋出版

    分譲マンションは現在、「区分所有者の老い」「建物設備の老い」という二つの老いの問題を抱えています。 本書では、国土交通省から公表されているデータや、筆者のマンション管理士としての経験から得た知識を基に「マンシ…

    人気記事ランキング

    • デイリー
    • 週間
    • 月間

    メルマガ会員登録者の
    ご案内

    メルマガ会員限定記事をお読みいただける他、新着記事の一覧をメールで配信。カメハメハ倶楽部主催の各種セミナー案内等、知的武装をし、行動するための情報を厳選してお届けします。

    メルマガ登録
    TOPへ