デフォルト企業に高格付けが多いのは「当然」
中国では投資家ではなく発行体が格付け費用を負担することが一般的で、格付け会社間の「狼多肉少」と称される過当競争の中で、劣悪な発行体ほど高い手数料を払って高格付けを取得する「逆向選択」が生じ、そもそも発行体の9割近くがAA以上という「偏高」だ。このため、デフォルト企業に高格付けが多いことは当然の結果でもある。
市場関係者の自主規制機関である中国銀行間市場交易商協会(NAFMII)と証券業協会の業務通報(以下、通報)によると、2021年3月末、格付けを取得している公募信用債発行体(金融を除く)は3544社、うちAA以上の割合は発行体ベースで公司債94%、企業債88%、その他中期手形やCPが98%。上記NIFDの1月研究評論は現在AAAが本数ベースで19%、債券残高ベースで61%を占めるとしている。
格付け会社中証鵬元評級は、2021年に償還を迎える信用債の格付け分布は本数ベースでAAAが37.9%、AA+が28.8%、AAが26.7%、格付けなしも含めその他6.6%、金額ベースでは各々63.3%、21.5%、11.7%、3.5%で、高格付け債券の償還圧力が続くと予測している(2021年1月25日付南方財経網)。
発行体が格付け会社を変更して上の格付けを取得する「虚高」、つまり中味を伴わない高格付け、あるいは銀行間債券市場(CIBM)と交易所(取引所、EX)で同一発行体の格付けが異なるなどの現象が後を絶たない。「虚高」に関し、通報によると、2020年に格付け会社を変更した発行体537社のうち、50社(9.3%)が前より高い格付けを取得しており(2021年第一四半期は103社が格付け機関を変更し、うち7.8%にあたる8社が前より高い格付けを取得)、また2021年3月末、CIBMとEXの両方で格付けを取得している発行体は811社(全体の23%)で、そのうち2つの格付けが異なる発行体は141社あった(不一致率は141社÷811社=17%)。。
さらに、昨年デフォルトを起こした永煤、清華紫光はAAAだったが、永煤はデフォルト当日BB、紫光は前日AA、当日BBBにやっと格下げされたことが端的に示すように、格付けがタイムリーに見直されておらず、格付け会社の事前警告が機能していない。通報によると、2020年の新規デフォルト企業23社のうち14社はデフォルト前6ヵ月間、警戒リストへの記載や見通しも含めた格下げなどの事前警告がなく、9社は1ヵ月前でも格下げされなかった。2021年第一四半期は新規デフォルト企業14社のうち、4社については、6か月前、3か月前に格下げなどの事前警告があった。上記(図表3)は、かなりのデフォルト債券の格付けがA級格付けのままで、2020年は2019年からむしろその比率が高まっていることを示している。
政府の「暗黙の保証」を前提にした「偏高」で、発行体自身の財務リスクを反映していないという長年指摘されてきた問題(『中国債券市場の未来』IMF・日本証券経済研究所共同出版、筆者監訳、2020年7月)は残ったままだ。
デフォルト急増…格付けの信頼性改善に向けた動きとは
すでに2019年12月、人民銀行、発展改革委員会、証券監督管理委員会(証監会)、財政部は共同で、格付け会社を認可制から備案(届出)・登録制へ移行する規制緩和と合わせ、監督の統一化と格付け業務の独立性、公正性を高めるための罰則強化を盛り込んだ「信用評級業管理暫行弁法」を公布している。しかし上記の通り、これまでのところ、目立った改善はみられていない。こうした中で近年、デフォルト急増を受けて以下のような動きがある。
①これまで地場の格付け会社8社中心だった格付け業界に、2019年1月にスタンダード&プアーズが外資として初めて独資形態で参入、次いで2020年5月フィッチが参入。
②証監会は2020年8月に公司債管理弁法を改正。「偏高」の原因の1つだった債券発行時の格付け要件(外部格付け会社による格付け取得を義務付け、また公募債はAAA格付け取得が必須)を廃止。
③格付け費用を投資家が負担する例が出てきており、そのメリット、デメリットの議論が出始めた(例えば、利益相反はなくなるが、格付けする際に公開情報しか利用できなくなる可能性があり、深度ある、あるいは安定的な格付けが困難になるなど)。
④格付け会社の事前警告機能はタイミングも含めなお十分働いていないが、デフォルト前に警告を発出する例が徐々に見られるようになっている。
⑤タイムリーな警告発出を促進し、虚高の改善を図るため、証監会やNAFMIIなどが格付け会社への「約談」と呼ばれる事情聴取・指導を強化している。NAFMIIは2020年12月、格付け会社の中誠信国際信用評級(ムーディーズが49%出資)と東方金城国際信用评估(評価)に対し、中誠信についてはデフォルトを起こした永煤と河南能源化工の格付けにおいて、東方金城についてはその情報システムや格付け評価モデルに関しNAFMII自主管理規則違反があったとして、3ヵ月新規格付け業務停止。
⑥上海と深圳の両EXの共同出資で設立した中証指数有限公司や、中央国債登記結算有限責任公司が100%出資して設立した中債金融估値(評価)中心が開発した「隠含評級」と称される格付けへの注目が高まっている(「暗に含まれた格付け」、あるいは「陰の格付け」の意味だが、公表されている)。格付け会社の伝統的な格付け(外部評級)が主に発行体の基本情報を基にしているのに対し、隠含評級は債券の市場価格など投資家の当該債券に対する評価に重点を置いたもので、実態をより反映していると受け止められている。大半の発行体の隠含評級は外部評級より1〜2ランク低い格付けで、外部評級AAAのうち、隠含評級がAA+以上は38%に止まる(2021年4月7日付上海証券報)。
次回はデフォルト急増のマクロ的背景について論じる。
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