2021年9月、恒大集団の破綻・デフォルトの噂が再燃
業界1、2位を争う大手の恒大地産を有する恒大集団(本拠地深圳)は、2020年9月、同集団が広東省政府に宛てたとされる文書(恒大は、文書はねつ造されたものと否定)がネット上に出回り、一時破綻の噂が流れた(『中国債券デフォルトの急増で、不動産業界が陥る「混迷」』参照)。
その後小康状態だったが、2021年9月に再度、同集団の破綻、デフォルトの噂が広まり、深圳本社に同社子会社が発行した理財商品に投資した多くの投資家が集まり、投資資金返済を求めて抗議する騒ぎとなった。
現地中国語報道によると、同集団は破産や資産整理の噂を事実無根と否定し、「度重なるメディアの同集団に対するマイナスの報道によって、9月にかけさらに業績が悪化し、現金流動性が一層圧迫されている。満期を迎える400億元の返済を一挙に行うことは困難だが、外部コンサルタントにも委託し、流動性解決案を速やかに探る。すでに関連子会社の売却候補先と水面下で接触している」などとしている。
「単純に救済するわけにもいかない」当局のジレンマ
恒大の2021年上期財務報告によると、負債総額は2020年中国GDPの2%に相当する2兆元(約34兆円)弱、20年6月末は8355億元とされていたので、1年間で2倍以上に膨れ上がったことになる。他方、恒大からすれば、2兆元をゆうに超える資産があり担保に問題はなく、一挙に膨大な返済に応じる必要が生じない限り、資金ショートすることはないはずだ。それもかかわらず、騒ぎが大きくなっているのは、メディアの度重なるマイナスの報道によるものと、恒大が不満を募らせている構図だろう。ただ、経営が厳しい状況に置かれていることも認めており、今回の騒ぎはメディア報道だけが原因というわけではない。
市場は、同集団の債務問題は中国金融システム全体のリスクに繋がりかねないと懸念する一方、当局は同集団が大きすぎて破産を容認するわけにはいかないが、すでに改善すべき「高債務体質」の象徴になっており、単純に救済するわけにもいかないというジレンマに直面しているとみている。
当局からすると、①かつての米国のサブプライムローン危機と異なり、中国では住宅購入の際の頭金比率が非常に高いため、大きなリスクに繋がり難い、②上述、恒大はなお2兆元を大きく超える優良資産を保有し、そのうち4568億元は全国に778プロジェクトにかかる土地、③不動産業界の高債務体質改善の大方針から、本件を今のところ落ち着いた様子(淡定)でみている(親中色の強い海外華字誌として知られる多維新聞9月20日記事)。監督当局は調査チームを恒大に送り込み、不動産業界の高債務体質改善という大方針に反せず、しかし、内外の市場の動向をみながら、これ以上大きな混乱を招かないような債務再編を模索している段階だろう。
中国金融市場の今後を占う、監督当局の対応
9月、国家統計局は定例の経済統計発表記者会見で、「なお不動産業界全体に対する影響を見極める必要がある」として、当面は救済に乗り出す計画はない姿勢を示している。また人民銀行(PBC)と銀行保険監督管理委員会(銀保監会)は恒大に対する約談(行政指導)の中で、「不動産市場の健全で安定的な発展という国家政策を着実に(認真)実施する必要」「恒大は経営安定化に努力し、債務リスクを能動的に緩和し、不動産市場と金融の安定を維持すること」と述べている。
監督当局の言いぶりとして、前者は当局の政策は高債務体質を改善しない不動産企業は淘汰し、それによってシステミックリスクの発生を防ぐということ、後者は恒大に対し、速やかに資産の売却を通じて債務問題を解決し、リスクが業界、金融全体に波及しないようにすることを求めたものと解されている。
恒大という個別企業の問題に止まらず、不動産市場、ひいては中国の金融市場全体の今後を占う上で、監督当局の対応に注目する必要がある。
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