2020〜21年の「マクロレバレッジ」と「金融政策」
2020年のデフォルト急増のマクロ的背景として、パンデミックでGDPが落ち込み、それへの対応として金融緩和策が採られたことから、実体経済部門のマクロレバレッジ比率(債務残高の対GDP比)が前年比24.7%ポイント増と急上昇し、うち非金融企業部門が11%ポイント占めたことが挙げられる(社会科学院系列の国家金融発展実験室、NIFD)。人民銀行(PBC)の別途推計も同様の傾向を示している。
国際金融協会によると、2020年の米、英、日、独の非金融企業部門のマクロレバレッジ比率の上昇幅は各々6.1、6.6、2.8、6.2(いずれも%ポイント)で、中国の上昇率の高さは際立っている。NIFDはこの要因として、パンデミックによる経済の落ち込みへの政策対応の違いを挙げている。すなわち、欧米諸国が現金給付などを通じて家計部門を支援したのに対し、中国は企業活動支援に重点を置いたためというものだ。
2020年末の先進国の非金融企業マクロレバレッジ比率平均は98.2%(前年比7%ポイント増)、途上国平均103.5%(同10.3%ポイント増)で、もともと中国の同比率は諸外国に比べ高い。地方政府融資平台債務を中心に地方政府の隠れ債務が含まれていること(NIFD推計ではこれを除くと30〜50%ポイント低下)、先進国と比べ、なお株式市場が未発達であることが背景にある。
2021年第1四半期(Q1)はNIFD、PBCいずれの推計でも、経済回復に伴い分母のGDPが大きくなった結果、マクロレバレッジ比率はやや低下している。NIFDは、2021年名目成長率11.5%、実体部門債務残高伸びは10〜11%でマクロレバレッジ比率は266%程度にまで低下、うち非金融企業は6.5%ポイント程度の低下幅になると予測している。高レバレッジの是正は長期的に成長を持続可能なものにする上で基本的には望ましい。ただ今後、経済回復に伴い金融正常化が進むと、流動性が逼迫する局面もあり得る。
2020年末、外貨管理局幹部が「金融政策をいつ、どう正常化するか考える時期に来ている」と発言する一方、2月にPBCが発表した「2020年Q4貨幣政策執行報告」は、2021年金融政策で「不急転弯(急激な転換はない)」とし、「市場の合理的で充分な流動性を保持」「情勢変化に応じ、政策のタイミング、強度、効果の重点(時度効)を柔軟に調整する」ことを強調した。
流動性供給の重要手段である中期貸出ファシリティ(MLF)の実際の操作を見ると、2020年8月以降、新型コロナの影響で落ち込んだ景気を活性化するため旺盛な流動性供給を続けたが、2021年に入ってからはやや抑制気味だ。MLF残高は2020年7月末3.55兆元から2021年1月末5.35兆元にまで急速に膨らみ、金融機関がMLFからの借入をする際に要求される優良担保が不足し始めた。2018年来の経験則では、MLF残高が4.2兆元を超えるとPBCが準備金率を引き下げる傾向にあるため、市場では一時そうした政策対応が近いとの憶測も流れたが、これまでのところ、そうした対応はない。6月末残高は5.4兆元で、2月以降ほぼ横ばいだ。
PBC総裁は2021年1月、メディアの取材に答える形で、「中国はもともとゼロ金利やマイナス金利、大水漫灌と呼ばれるようなばらまき的量的緩和は行っておらず、世界でも正常な金融政策を実施している数少ない経済体の1つ。したがって、正常化に伴って何か問題が生じるという可能性は小さい」と発言。3月全国人民代表大会(全人代)での政府工作(活動)報告では抑制気味の財政運営とセットで金融政策の「不急転弯」方針が確認された(『中国2021年両会から見える「経済政策面」の特徴とは 』参照)。
PBCが5月に発表した「2021年Q1貨幣政策執行報告」では引き続き「市場の合理的で充分な流動性を保持」としつつも、これまであった「不急転弯」「時度効」の文言が消えたこと、「実体経済に寄与するという金融政策の位置付けが以前より強くなっていることを踏まえ、正常な金融政策空間を大切にする(珍惜)」と「正常」が強調されたことから、一部市場でPBCがコロナ対応のための緊急緩和スタンスから脱却する決意を示したとの見方が広がった。
ただ同時に同報告は、「リファイナンス機能の向上や融資実質金利引き下げを一層推進する」として、経済回復やリスク防止対応にも配慮した内容になっており、さらに6月末に開かれた「金融政策委員会Q2例会」は、「内外環境は依然として極めて複雑」とし、引き続きリスク防止や実質金利の一層の引き下げなどに言及するとともに、再び政策の「時度効」をしっかり把握していく必要があるとしている。
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