「中国債券市場の未来」日本語版の紹介

 

国際通貨基金(IMF)は2019年、IMF内外の多くの研究者や実務家を結集して、「中国債券市場の未来」英語版、次いで中国語版を出版した。中国債券市場の制度、諸規則、中国当局の政策を詳細に調査し、それを最新の金融工学や統計学の手法を用いて分析したうえで、今後に向けての政策提言を行ったという点で他に類を見ない書となっている。2020年7月、この日本語版が、当方の監訳で、公益財団法人日本証券経済研究所より出版された(http://www.jsri.or.jp/publish/translation/translation_05.html)。

 

世界的な資産ポートフォリオを考える投資家にとって、中国債券は大きな選択肢のひとつである一方、その実態についての詳細かつ包括的な文献は少ない。本書はそうしたギャップを埋めるもので、本書を通じ、中国債券市場に関わる制度、市場の実態と特徴、中国当局の政策の動き、今後の見通しなどについて、客観的かつ正確な情報を得ることは、極めて有効なことと考えられる。

 

本書の構成は以下の通りとなっている。

 

第一部 概観と国際環境

第1章 中国債券市場 その特徴、展望と改革
第2章 中国債券市場と国際金融市場

第二部 債券市場の特徴

第3章 ソブリン債:イールドカーブから分かること
第4章 クレジット債
第5章 地方政府債
第6章 国債先物取引
第7章 グリーンボンド
第8章 資産担保証券

第三部 中国債券市場の改革

第9章 中国債券市場の開放:若干の考察
第10章 中国債券市場における金融安定性の強化
第11章 外国人投資家の参入を阻む障害を取り除く
第12章 中国債券市場の売買取引パターン
第13章 債券市場における暗黙の保証の段階的解消に向けて
第14章 金融当局の市場との政策対話:枠組みと市場への影響

第四部 オフショア債券市場

第15章 オフショア市場の人民元建て債券:点心債
第16章 中国のオフショア米ドル建て社債

 

監訳にあたっては、原書に忠実であることを大前提としつつ、読者にとってできるだけ読みやすいものとする観点から、次のような点に留意している。

 

①本書が中国の制度や諸規則、政策の動きを論じていること、また執筆者の多くが中国人研究者・市場関係者であることに鑑み、全編にわたって、英語版のみならず、中国語版も参照している。基本的には英語版の記述を基にしつつも、中国語版の記述がより明確であると思われる部分はそれを補足し、また中国の諸機関、諸規則等の名称については、日本人読者が理解可能な範囲で、できるだけ中国語原文の漢字表記を使用、またはカッコ書きで併記している。

 

②特に、第11章「外国人投資家の参入を阻む障害を取り除く」は、中国語版において、執筆者自らによって、英語版から大幅に加筆修正され、またデータや政策の動きも更新されていることから、同章は原則として中国語版に依拠して訳出している。

 

③本書では、金融工学や統計学の手法が多用されている。こうした分野に明るい読者を前提にした記述になっているが、一般の読者の便宜を考え、監訳者の責任において、適宜、カッコ書きで補足説明を加えている。なお、こうした専門的・技術的部分にあまり関心がない読者にとって、仮にこうした部分を読まなくても、全体として、本書の内容は把握できるようになっている。

 

④英語版(および一部は中国語版)で、明らかに誤植と思われる部分は適宜、監訳者の責任において修正している。また、その他、必ずしも執筆者の意図が十分把握できなかった部分、および、英語版と中国語版で異なる記述になっている部分については、個別にIMFを通じて執筆者に確認したうえで、その結果を訳文に反映させている。これらの結果、元の英語版から内容が大きく変わった部分については、適宜、該当箇所において、(監訳者注)と明記の上、補足説明を加えている。

 

⑤個別の訳語について、英語版において(また、中国版においても)、厳密に使い分けられているか、必ずしも定かではなかった用語等があり、以下のように訳語を使い分けている。

 

(i)本書全体を通して、英語版では「integration」という用語が頻繁に用いられ、中国の債券市場、ひいては金融市場全体とグローバル市場との一体化、そのインプリケーションが論じられている。通常、「integration」は「統合」と訳されるが、中国語版で該当部分は、文脈に応じて「一体化」「融合」「融入(溶け込む)」と訳し分けられている。日本語版では原則、中国語版に従い、「一体化」「融合」の訳語を使用している。

(ii)英語版において、「government bond」「treasury bond」が使用されている箇所については、中国語版の記述に合わせ、「政府債」または「国債」としている。

(iii)英語版の「debt」は「債務」、「liability」は「負債」としている。中国語版も同様に訳し分けている。

(iv)英語版の「yield」「interest rate」(中国語版では各々「収益率」「利率」)は、各々「利回り」「金利」と訳し分けている。

 

もとより、英語版、あるいは中国語版を直接手にする読者も多いと思われるが、以上のように、日本語版には、多くの点で一定の付加価値が付いていると考えている。

 

本書日本語版がより多くの読者の目に触れ、中国債券市場に対する正確かつ客観的理解が進むこと、また、投資家がグローバルな資産運用を考える際の一助になることを期待している。

 

(監訳者 金森俊樹)

 

 

書籍名:『中国債券市場の未来』

 

著者:アルフレッド シプケ(原著・編集)、 マルクス ロドラウアー(原著・編集)、 ロンメイ ジャン(原著・編集)、 金森 俊樹(監訳)

 

金森 俊樹

1976年、大蔵省入省。1990年、アジア開発銀行理事代理、2000年、香港理工大学中国商業センター客員研究員。2003年、アジア開発銀行研究所総務部長、2006年以降、財務省神戸税関長、財務省財務総合政策研究所次長、財務省大臣官房政策評価審議官、2010年から大和総研常務理事等の要職を歴任。 2015年、NWB(日本ウェルス)の独立取締役に就任。一橋大学卒。香港中文大学普通話課程修了。

 

出版社:日本証券経済研究所

 

価格:本体4,500円+税

 

 

 

 

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