中国経済を牽引してきた不動産業界だが、ここにきて大きな変化が見えてきた。2020年はこれまで稀だった不動産企業の債券デフォルトが相次ぎ、前年比5.3倍に急増。その背景に、不動産業界が抱える累積債務や政府の不動産市況抑制策などがある。中国不動産業界の実情と今後の展開を考察する。本稿は筆者が個人的にまとめた分析・見解である。

不動産企業のデフォルト、経済の「灰犀牛」に

2020年は7月に泰禾(本拠地福建)が大手としては初、次いで天津房地産、福晟(福建)など、これまで稀だった不動産企業の債券デフォルトが相次ぎ、デフォルト額は281.7億元、前年比5.3倍に急増した(2020年1月11日付「東方財富網」)。

 

その他、業界1、2位を争う大手の恒大地産を有する恒大集団(深圳)が広東省政府に宛てたとされる文書(恒大は、文書はねつ造されたものと否定)が2020年9月にネット上に出回り、同集団破綻の噂が流れた。

 

文書は恒大集団の2020年6月末の債務総額が8355億元(対銀行債務が民生銀行、農業銀行を始めとする128行に対し2323億元、対非銀行金融機関債務121社、3684億元、オンショア債496億元、オフショア債1852億元)、傘下の恒大地産は2021年1月末までに事業提携先の戦略投資家に元本1300億元、金利137億元を返済する必要があり、この「権益」が負債に変わると負債資産率が90%以上となって資金不足に陥り、これが金融市場にシステミックリスクを発生させる恐れがあるとしていた。

 

恒大は2020年11月下旬、1300億元のうち1257億元は各戦略投資家が2021年1月末までの返済を求めず、長期普通株として保有し続けることで合意したと発表し、当面の市場の不安は和らいだ。

 

不動産企業は長年、住宅販売額を大きく超える投資で住宅バブルを支えてきた。不動産部門が生み出す付加価値がGDPに占めるシェアは2020年7.3%、建設業を含めたシェアは15%で、その成長牽引力は大きい。第3次産業に占めるシェアは14%で、卸小売や金融と変わらない(以上、国家統計局「GDP統計」)。

 

また、地域経済の不動産投資への依存も無視できない。不動産シンクタンクの上海易居房地産研究院によると2019年、31省市区のうち25で不動産投資の対当該省市区GDP比が10%以上、うち9が15%を超える(最高は海南の25.2%、次いで天津19.3%)。特に省の行政府がある省都など地方の大中都市の不動産投資依存が顕著で、40都市のうち25都市で不動産投資の当該都市GDP比が15%を超え、うち9都市が20%を超えている(最高は海南第2の都市である三亜44.2%、次いで雲南省都の昆明32.7%)。

 

別途、26省都(自治区は首府)を対象にした地元経済誌調査(2020年6月29日付「第一財経」)では2019年、省都の不動産投資が省区の総不動産投資に占める割合40%以上が13、うち8が50%以上8(最大は青海省西寧72%、次いで寧夏自治区銀川68%、吉林省長春67%)、省都GDPの対当該省区GDPに占める割合とのかい離を見ると、24で不動産投資シェアがGDPシェアを上回っており、乖離幅10%ポイント以上が15、うち20%ポイント以上が7で(最大は陝西省西安27%、次いで新彊ウルムチ26.5%、黒龍江ハルビン26.4%)、不動産投資が経済規模以上に省都に集中している傾向が見て取れる。

 

地方政府は地価上昇による土地出譲収入(国有土地使用権の開発業者への転売に伴う収入。2020年実績8.4兆元で、税収などの一般歳入10兆元に匹敵する主要財源)の増加も期待して、こうした状況を容認してきた。

 

以上のような状況下、不動産業界の債務総額は2019年末76兆元、対GDP比77%に膨らんでいる(2020年12月14日付雑誌『財経』)。すでに何年も前からその危険性が伝えられてきたが、中国銀行保険監督管理委員会(銀保監会)の郭樹清主席は2020年11月、不動産関連融資は銀行総融資の39%にのぼり、不動産業界は多額の債券も発行していることから、金融市場にとって最大の灰犀牛(フイシーニュ―:グレーリノ)だとし、さらに2021年3月も、2020年は8年ぶりに金融機関の不動産企業向け融資伸びが融資全体の伸びを下回り、状況に若干改善が見られるものの、同業界が灰犀牛であることに変わりはない旨発言している。

 

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