大手ヘッジファンドのトップは、3つの出身に分かれる
大手ヘッジファンドのトップになるのはどのような人間であろうか? 彼らはいったいどこからやってきたのか?
「金融市場はすべてユダヤ人が握っている」というユダヤ陰謀説がかなりポピュラーな日本では、ヘッジファンドに関しても「ユダヤの巣窟(そうくつ)」とみなしている向きは少なくない。
たしかにヘッジファンドのトップにはソロスのようにユダヤ系の人間が多い。しかし、案外目立つのはアメリカ南部出身のWASPである。タイガーのジュリアン・ロバートソン、ムーアのルイス・ベーコン、チューダーのポール・ジョーンズは全員南部出身である。
アメリカ南部の方が「狩猟民族的」なのであろうか。それとも農耕地であった南部では綿など穀物のトレーディングなどが盛んであったという社会的背景にあるのか。人種は別として、ヘッジファンドのトップをビジネスの出身別に見ると、大きく三つに分けられる。
一つ目は、株のファンドマネジャーの経験を得てヘッジファンドのトップになるケース。たとえばソロスやロバートソンである。個別株の投資が主流で、マクロ的な要因はどちらかというと後から手を付けた手法である。
タイガーのジュリアン・ロバートソンの長年の投資手法は「この世の中にある一番良い会社を200社見つけてきて投資する。同時にこの世の中で一番悪い会社を200社見つけてきて空売りする」ことだという話を聞いたことがある。不名誉にも1998年頃の日本の銀行は、後者の200社の枠に入れられていた。
また、株のファンド・マネジャー出身組は投資先会社の取材に重きを置くので、その目的で、頻繁に日本を訪れるケースが多い。
二つ目はディーラー・トレーダー出身組のケース。これはベーコンやジョーンズが代表格だ。どちらかというと為替や先物など流動性が高いマーケットから上がってきたグループである。
当然株式にも投資をするが、どちらかというと前者のように個別に株を選別する「ボトム・アップ」より、マクロ経済の動向→産業セクターの動向→企業という「トップ・ダウン」のアプローチが主流である。
なお、前者と比べてこの二つ目のタイプの方が、損切りが早く、また、ポジションの仕切り直しも早い。育ってきたマーケットの動きが速くかつ流動性があるからだと思う。
このディーラー・トレーダー出身組は株のファンドマネジャー出身組とは対照的に、自分のオフィスからあまり出かけず、マクロ情報など集めるタイプが多い。どちらかというと、モニタースクリーンが手元にあって、常にマーケットを追っていないと満足しないタイプだ。したがって現地取材はあまりしないし、よって日本に来る連中もめったにいなかった。
三つ目は米国のインベストメント・バンクの債券部門で、裁定取引などで腕を上げて、ヘッジファンドのトップになるケースだ。これの代表はロング・ターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)のようなアービトラージ系だ。
アービトラージ系は「割安」を買い、「割高」を空売りする「マーケット・ニュートラル」(市場中立性)と言われ、理論上マーケットが上がっても下がっても関係ない、というのがうたい文句である。
しかし、実際はリスクが単純に減るのではなく、増える場合もある。ひとつの取引に買い・空売りと両側が立ってレバレッジ度が高いので、想定外の損失を被る場合は通常の倍返しだ。
インベストメント・バンクの債券デスクの収益尺度は、「何本儲かった」という絶対額が重視されがちなため、一方で資本が「何パーセントで回った」という資本効率性の認識が足りない、と感じられるときも少なくない。
裁定取引組とはPCに載っている定量モデルが収益源の核となるので、ディーラー・トレーダー出身組と同様、オフィスの司令塔にこもって世の中を見る。
おおざっぱに言うと、ヘッジファンドのトップの出身は以上三つに分かれている。もちろん、ひとつのファンドの中でも色々と違うスタイルのファンド・マネジャーが運用している場合もある。
たとえばムーア・キャピタルでも個別株を選別して運用する「ボトム・アップ」のファンド・マネジャーもいるし、タイガーでもドル円や先物取引を行っていた。しかし、あえて言えば、そのファンドのトップの得意とする分野はこのようにかなり明確に分かれるし、それは彼らの出身である仕事のやり方が左右されている部分が大きい。