(※写真はイメージです/PIXTA)

未公開株式に投資するファンドに「プライベート・エクイティ(PE)ファンド」があります。そして、このPEファンドの代表的なものには「ベンチャーキャピタルファンド」と「バイアウトファンド」があります。今回は、両者の共通点や違いについて見ていきます。※本連載は、渋澤健氏の著書『渋沢栄一 愛と勇気と資本主義』(日経ビジネス人文庫)より一部を抜粋・再編集したものです。

オルタナティブ投資の例…ヘッジファンド、PEファンド

ポートフォリオ内の相関性を抑制するリスクマネジメントが「オルタナティブ投資」の役目だ。そうなると、ヘッジファンド以外の投資で「絶対的収益」を目標とする投資にも視野が広がる。

 

※伝統的な資産の株式や債券とは異なる値動きの商品に投資し、リスクを軽減して運用する手法のこと。

 

そういう意味では、ヘッジファンドの運用成果の時間軸と異なるオルタナティブ投資も組み入れることも合理的だ。それが、プライベート・エクイティ(PE)ファンドである。

 

実は、アメリカの年金基金の場合は、ヘッジファンドよりPEファンドを好む傾向があった。それは、米年金基金の投資は単年度の成果より、長期的目線で資産配分を行う姿勢が整っていて、PEファンドへ投資することは5年~10年以上の長期的な投資へのコミットメントであるからだ。

 

また、PEファンドの運用は、ヘッジや銘柄入れ替えによってパフォーマンスを上げるというより、じっくりと企業の株式に投資する手法だ。ヘッジファンドの運用より説明しやすい。

 

「伝統的」な株式投資とPEファンドが異なるところは、市場流動性が乏しい未公開株の長期投資であることだ。そのリスクを許容する代わりに、利回りが向上するのであれば、全体のポートフォリオ運用の実績に貢献する期待が高まるという考えだ。

 

PEファンドも分類が多彩である。バイアウト(買収)ファンドやベンチャーキャピタル(VC)ファンド、そして、不動産、ディストレスト、石油ガス/天然資源、持続的エネルギー、森林地開発等がある。分類によっては、「株式」ではなく、「債券」や「債権」(ローン)、あるいは「不動産」を投資対象とする。

 

いずれにしても、なんらかの得意分野のエッジ__差別化できるポイントを持つプロフェッショナルたちの運用によって、絶対的収益を目指しているのがPEファンドである。そういう意味で、ヘッジファンドと同様の「オルタナティブ投資」になる。

 

PEファンドの代表格であるベンチャーキャピタルファンドとバイアウトファンドは、両方とも未公開株式に投資をするが、どのように特性が異なるのか整理してみよう。

「VCファンド」と「バイアウトファンド」の共通点

ベンチャーキャピタルファンドやバイアウトファンドの投資対象は未公開株式という共通点がある。

 

株主と投資企業のプライベートな関係なので、第三者向けの情報開示は基本的にしていない。また、上場している公開企業は取引所の売買によって流動性が確保されているが、未公開企業の株式の売買は、買い手と売り手の価格が折り合うまで、じっくりと交渉するのが基本だ。

 

企業が事業展開に関して重要な決断を下す必要がある場合、不特定多数の株主がいる公開企業より、特定少数の株主しかいない未公開企業の方が、タイムリーに対応できる場合がある。

 

もちろん、素早く的確な経営決断を下すことは、どの企業でも重要である。ただ、創業からまもないベンチャー企業、あるいは事業再編が必要とされている成熟企業には不可欠な要素だ。

 

また、上場している公開企業の株式投資では、市場で売買が出合った価格、あるいは気配により、時価で評価できる。しかし、ベンチャーキャピタルファンドやバイアウトファンドの投資対象は未公開株式だ。株式市場で取引されておらず、時価を入手できない。

 

時価による代用ができないので、重要な本質的イベント(Significant Material Event)が生じていない限り、取得価格で評価して、含み益や含み損は計上しないという保守的な考えが業界の慣習だ。

 

この「重要な本質的イベント」とは、第三者割当の増資、買収、倒産などを含む。第三者割当や買収の場合、企業のその時点の価値(時価総額)を徹底的に算定する必要があり、実際に買い手と売り手の取引が成立したという意味で正当性がある。

 

その際に投資の含み益が生じる場合は「マーク・アップ」というが、一方、業績不振により著しく企業価値が毀損していると判断しなければならない場合は「マーク・ダウン」して含み損を計上する。そして、もし、全額損失処理が必要と判断された場合は、ポートフォリオから「ライト・オフ」(削除)される。

 

また、投資対象である未公開株式の流動性が乏しい投資なので、ベンチャーキャピタルファンドやバイアウトファンドはリスクを軽減するためには能動的に投資先企業の経営に参加する。ファンド自ら、投資先の経営に携わることによって、企業価値を高めることに尽力するのだ。

 

企業の取引先への販売やマーケティングを支援する場合もあれば、財務編成などに助言する場合もある。経営者の方向性や実践力に課題があると判断すればガバナンスを効かせて、必要であれば交代を要請する場合もある。

 

投資先の経営に関わることが彼らのリスクマネジメントであるため、投資先の数を増やすリスク分散は本末転倒になる。彼らの基本は、集中投資である。

 

 

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渋沢栄一 愛と勇気と資本主義

渋沢栄一 愛と勇気と資本主義

渋澤 健

日本経済新聞出版

もし、渋沢栄一が現代に生きていたら、日本の持続的成長を促すファンドをつくっていただろう――。 大手ヘッジファンドを経てコモンズ投信を創業した渋沢家5代目が、自身のビジネス経験と渋沢家家訓を重ね合わせ、目指すべ…

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