(※写真はイメージです/PIXTA)

大河ドラマ『青天を衝け』で脚光を浴びる渋沢栄一は、家訓で「投機」を禁じ、正しい筋道で勤勉に働くことをすすめています。今回は、渋沢栄一の家訓第ニ則「修身斉家ノ要旨」(自分と家庭を正しく保つことに必要な要旨)より2つを厳選し、その真意を読み解きます。※本連載は、渋沢栄一の玄孫で、コモンズ投信株式会社会長を務める渋澤健氏の著書『渋沢栄一 愛と勇気と資本主義』(日経ビジネス人文庫)より一部を抜粋・再編集したものです。

創業の基礎は「勤勉と倹約」であり、怠けてはいけない

「勤ト倹トハ創業ノ良図守成ノ基礎タリ、常ニ之ヲ守リテ苟モ驕リ且ツ怠ルコトアルヘカラス」

(勤勉と倹約は創業の良い企画と成功の基礎である。常にこれらを守って、決して気ままに振る舞ったり怠けたりしてはならない)

 

筆者は2001年に独立した。それまでのサラリーマン生活では自分が会社の固定費であったが、その後は固定費を支払う立場になった。自分のポケットからお金を払うようになると、今まで会社では当然のように使っていた機器、サービスやその他インフラがとてつもなく高く感じられるようになった。

 

外資系金融機関に10年弱、大手ヘッジファンドに5年間勤めた経験があったから、別の会社に雇ってもらう選択肢もあった。仕事と収入の安定性を選ぶのであればそれが最適であることは明らかだ。

 

が、あえて独立を決断した大きな理由は、新しい道を切り開きたかったということ。それに尽きる。

 

それまでの筆者の仕事は金融マーケットにおける戦いに挑むことだった。ただ、それは基本的に毎日同じ人たちと話をして、同じ仕事を繰り返すだけであった。それよりも、独立して新たな仕事にチャレンジしたほうが、新しい出会いや刺激と巡り合えるチャンスが増えるのではないかと思ったのである。

 

新しい出会いの縁が増えれば自分のキャリアのダウンサイドは限定されて、アップサイドが無限に広がるという個人的なリスクマネジメントの判断であった。万が一、仕事が金銭的にうまくいかなくても、この体験から得る貴重な「財産」は確実にある、と信じて独立した。

 

自分が40歳になった当時、キャリアの中で目標を持ったいまこそ、「守り」でエネルギーを蓄える時間から、「攻める」時間が訪れたのだ。ただし、独立にあたって、前進していた道が何回も予期なく塞がれた。

 

特に、リーマン・ショックは大きかった。独立して、米国西海岸のパートナーと年月かけて築いたヘッジファンドの「ファンド・オブ・ファンズ」事業が、たった数ヵ月で全て崩れ去ったのである。

 

とある大手金融機関から解約の通達を受けた直後に、パートナーのクリス・ナイトと東京・丸の内の仲通りに茫然と立っていた。そのとき、クリスが言ったこと。「Everything happens for a reason.」(起こることには全て理由がある)。この一言で、それまでのしがらみを捨てた。

 

コモンズ投信という新しいチャレンジに踏み切ったのだ。

 

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渋沢栄一 愛と勇気と資本主義

渋沢栄一 愛と勇気と資本主義

渋澤 健

日本経済新聞出版

もし、渋沢栄一が現代に生きていたら、日本の持続的成長を促すファンドをつくっていただろう――。 大手ヘッジファンドを経てコモンズ投信を創業した渋沢家5代目が、自身のビジネス経験と渋沢家家訓を重ね合わせ、目指すべ…

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