(※写真はイメージです/PIXTA)

「日本の資本主義の父」と呼ばれた渋沢栄一は、家訓を作りました。今回は、その第一則「処世接物ノ綱領」(世の中における行動の本質)より3つ厳選し、人から信頼を得るコミュニケーションのポイントを見ていきます。※本連載は、渋沢栄一の5代目子孫、コモンズ投信株式会社会長を務める渋澤健氏の著書『渋沢栄一 愛と勇気と資本主義』(日経ビジネス人文庫)より一部を抜粋・再編集したものです。

相手が目上か目下にかかわらず、敬意を払うことが大切

「人ニ接スルニハ必ス敬意ヲ主トスルヘシ、宴楽遊興ノ時ト雖モ、敬礼ヲ失フコトアルヘカラス」

(人との交際には敬意を大切にすること。宴会などで遊び楽しんでいる時でも、礼儀に欠けるようなことがあってはならない)

 

小学校から大学卒業まで十数年間をアメリカで過ごした筆者は、就職時に日本に帰国した。日本の組織に所属したばかりの筆者にとって、非常に印象深かったことがある。それは、日本人の多くが、相手の地位によって言葉づかいから態度までを著しく変えることだった。

 

もちろん、相手が目上か目下かにかかわらず、他人にきちんと敬意を払って接する日本人もいる。ただ、目上にへりくだる一方、目下には無神経な人を見ると、引っかかるところがあり、心を許せないと感じたものだ。

 

酒の席になると、さらにひどくなる。目下はもちろん、今度は目上への敬意まで忘れてしまうほど酒に飲まれてしまう日本人が少なくない。腹を割った「飲みニケーション」は大切であるが、みっともない行為の印象はなかなか失せることがない。

 

一方、「世間」という概念、「恥」という概念__。過剰に形にこだわり、儀式にとらわれやすい日本人の根にある概念だ。

 

しかし、この恥をかきたくないという気持ちは「相手」に対する気配りではなく、極めて「自己中」の現象だ。本当に相手のために礼を尽くしているのではなく、単なる自分の保身である。栄一がいう礼儀とは「形」ではなく、もっと根源的な人と人との「信頼」のことではなかろうか。

 

明治維新でそれまでの階級制度が崩れ、武家社会は崩壊した。武士、農民、町人、職人……、いままで分断されていたコミュニティが統合され、新しい社会をつくっていった。そしてその新しい社会をつくる出発点で重要なのは、マニュアル化されたコミュニケーション術ではない。

 

相手とひざを突き合わせる「信頼」の心である。栄一は、その大切さを経験上、知り抜いていた。

 

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渋沢栄一 愛と勇気と資本主義

渋沢栄一 愛と勇気と資本主義

渋澤 健

日本経済新聞出版

もし、渋沢栄一が現代に生きていたら、日本の持続的成長を促すファンドをつくっていただろう――。 大手ヘッジファンドを経てコモンズ投信を創業した渋沢家5代目が、自身のビジネス経験と渋沢家家訓を重ね合わせ、目指すべ…

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