税務調査でしばしば取り上げられる「名義財産」の問題。相続手続きの際、被相続人・相続人間の認識の齟齬からトラブルに発展するケースは少なくない。相続問題に精通する税理士が、名義預金の基礎知識から万一の際の対応策まで解説する。※本記事は、『相続税調査であわてない 「名義」財産の税務』(安部和彦税理士著、中央経済社)より抜粋・再編集したものである。

「実質的な帰属者」に対して課税するのが原則

名義をめぐる課税問題は、名義に基づいて課税するのか、それとも名義ではなく実際の取引者ないし実質的な帰属者に対して課税するのかが問題となるが、基本的に税法は後者を原則としている。所得税法や法人税法では、このことがいわゆる「実質所得者(帰属者)課税の原則(所法12、法法11)」、すなわち、収益についてはそれを実質的に享受する個人ないし法人に帰属するものとして課税するという原則として現れる。

 

また、消費税法においても同様の規定があり、名義人が資産の譲渡等を行った場合で、それ以外の者がその対価を享受している場合には、その対価を享受した者(=帰属者)に対して消費税を課税するとされている(消法13)。

 

したがって、税務調査において実際の取引者ないし実質的な帰属者が誰であるのかが議論となるわけである。

 

ところで、上記実質所得者課税の原則をめぐっては、学説上、法律的帰属説と経済的帰属説の2つの見解がある。法律的帰属説とは、課税物件の法律上の帰属につき、その形式と実質とが食い違っている場合には、実質に即して帰属を判断する考え方である。

 

一方経済的帰属説とは、課税物件の法律上の帰属と経済上の帰属とが食い違っている場合、経済上の帰属に即して課税物件の帰属を判断するという考え方である。このうちいずれを採用するかであるが、法的安定性を重視する立場から、法律的帰属説の方が妥当であるというのが通説である。

 

それでは、相続税・贈与税においても所得税法のような「実質所得者(帰属者)課税の原則」が妥当するのであろうか。相続税・贈与税の課税物件は取得した財産(相続財産又は贈与財産)であり、納税義務者は財産を取得した個人である。となると、財産が相続・贈与時点において誰に帰属するのかが問題となるのであり、「実質所得者(帰属者)課税の原則」と問題は同じであると考えられる。

 

したがって、相続税・贈与税についても、所得課税における「実質所得者(帰属者)課税の原則」に倣い、財産の名義と実質的な帰属者が異なる場合には、法律的帰属説によって判断すべきということになり、法律上の実質的な帰属者に対して課税することとなるだろう。

 

なお、相続税・贈与税については所得課税ではなく、問題となるのは財産の帰属であるため、「実質帰属者課税の原則」と言った方が適切であろう。

 

相続税・贈与税における名義の問題とは、財産の帰属の問題である。財産の帰属の問題が法律的帰属説に従うのであれば、贈与の有無の認定に関する法的評価(民法上の贈与契約の要件成就の有無)がカギを握ることになりそうである。

 

相続・贈与財産の「名義」と「帰属」

 

 

安部 和彦

和彩総合事務所 代表社員

国際医療福祉大学大学院 教授

 

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