①名義預金:認知症の高齢者からの「贈与」は無効?
相続税・贈与税に関し問題となる名義財産の筆頭格が名義預金である。相続税の税務調査に関しては、「名義預金を制するものが税務調査対策を制する」と言っていいくらい重要性が高い項目である。
名義預金は、被相続人が自らの稼得した資金を元手に、銀行や郵便局等において被相続人以外の名義(多くの場合その配偶者、子又は孫)で預貯金を開設することによって生じる。このとき、当該預金を被相続人から名義人へ適法に贈与されていれば(民法上の贈与契約が成立していれば)、当該預金は名実ともに名義人に帰属するため、名義預金とはならない(形式=実質)。預金に関し被相続人と名義人とのあいだで契約である「贈与」が成立していないか、成立しているかどうか不明である場合に名義預金が生じるわけである。
●税務調査で「名義預金ではない」と相続人が主張するためのポイントは?
名義預金が生じる理由は様々であるが、実行者による意図的な相続税・贈与税逃れのケースもあれば、名義人が未成年者であるため親がお年玉やお祝いに係る預貯金を管理しているケース、贈与の意図はありながら受贈者の浪費を心配して預貯金の管理は引き続き贈与者が行っているケースなど、租税回避とは単純に断定できないケースも多くみられる。
相続税案件における預貯金等の帰属に係る一般的な判断基準として、裁判所は、「株式や貸付信託・預貯金等の帰属を認定するに当たっては、その名義が重要な要素となることはもちろんであるが、他人名義で株式の取得・口座の開設をすることも、特に親族間においては通常みられることからすれば、株式購入や預入金の原資を誰が負担しているか、株式取得・口座開設の意思決定をし、手続を実際に行っていたのは誰か、その管理又は運用による利得を収受していたのが誰かという点もまた帰属の認定の際の重要な要素ということができ、実際に株式や貸付信託・預貯金等が帰属する者の認定は、これらの諸要素、その他名義人と実際に管理又は運用をしている者との関係等を総合考慮してすべきものと解される。」としている(東京地裁平成18年9月22日判決・税資256号順号10512)。
その上で、裁判所は具体的な状況を見て、「丁(被相続人)の生前、本件有価証券等について、その名義人が通帳、ノート、株券等の必要書類の交付を求め、丁がこれに応じたという事実は存しないのであって、結局のところ、丁は死亡時まで、これらの管理・保管を続けていたことになるのであるから、丁からその名義人に対し、贈与の意思表示があったとも、その履行がされたともみることはできない。原告らが主張する前記贈与時期についても、それは株式、貸付信託、預貯金等、それぞれの丁以外の名義による取得時期、名義変更時期、口座開設や預入れの時期をあげていったものにすぎず、その前後を通じて、丁における各財産の管理の態様に変化があったこと、あるいは、各名義人に対して何らかの意思表示をしたことを示す証拠はないのであるから、贈与の事実があったことの根拠になり得るものではない。」として、預貯金等を相続財産の課税価格に算入すべきと判示した。
また、相続税に関する預貯金等の帰属について裁決事例では、「その資金源、預入れの経緯、印章の使用状況、入出金の管理状況及び名義変更等に伴う贈与税の申告状況等を総合勘案して判断するのが相当である(国税不服審判所平成19年3月5日裁決・TAINS F0-3-309,なお当該字句は、相続税の名義預金が問題となる事案において「決まり文句」のように繰り返されている)。」としており、名義預金の判断基準のフレームワークをなすと考えられる。
したがって、相続税の調査において、相続人が「名義預金ではない(=被相続人の財産ではない)」と主張するためには、名義人がその預金を完全に支配管理し、自由に処分できるかどうかがポイントとなるだろう。
なお、近年、わが国における社会の高齢化を反映して、認知症の高齢者からその親族へ財産の贈与があったかどうか判断が難しい事案が増加している。成年後見制度を利用し家庭裁判所にモニタリングされている場合には、認知症の高齢者からの「贈与」は無効とされるであろうが、そうでない場合、特定の親族が勝手に「贈与」があったとして財産を移転させることにより、相続時にその有効性をめぐってトラブルになるケースもみられるところである。贈与は契約であるため、贈与者・受贈者双方の意思表示能力が問われることとなる。
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