いま、弁護士や税理士などの士業は過渡期を迎えようとしています。「AIに仕事が奪われる」との声も……。しかし、士業のすべてなくなるわけではなく、人間にしかできない仕事がまだまだあります。AIやITなどの技術革新が続くなか、士業の仕事に付加価値をつける方法を税理士、公認会計士、心理カウンセラーとして活躍する著者が明らかにします。本連載は藤田耕司著『経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部を抜粋し、再編集したものです。

「指示待ち部下」を養成する話を聞かない上司

仕事の定義を見直す

 

「現場担当者にまで経営者意識を持たせるのは理想論にすぎないのでは」と思われるかもしれません。もちろん、従業員が経営者と同じレベルの経営者意識を持つことは難しいでしょう。それでも、指示された仕事だけでなく、経営改善について考える意識を持ってもらうことは、経営者の関わり方次第で十分に可能です。

 

従業員の意識変革には、仕事の定義の見直しが必要です。「与えられた作業をこなすのが仕事」という認識では、自らの頭で新たな提案を考えることは難しいものです。しかし、業務の効率化や新たな商品・サービス作りについて、アイデアや気付いたことがあれば上司に提案することも自分の仕事という認識を持てば、そういったことにアンテナを張って日々の仕事をするようになります。

 

従業員の意識や仕事への取り組み方は、仕事の定義次第で変わります。従業員にも経営者意識を持ってもらうべく、各従業員の「仕事」の定義を見直してみてください。

 

問いを与え、意見を求める

 

「仕事」の定義を見直せば従業員からどんどん提案が寄せられるかというと、そんな簡単なものではありません。従業員に自分の頭で考え、提案することを後押しするためには、具体的な問いを与えることが必要です。以前もお話しした通り、質問は相手の思考を司る力があります。その質問の力を活用して、次のような問いを与えます。

 

①「現状の業務を効率化するにはどうすればよいか?」
②「既存のお客様に追加で提案できることはないか?」
③「新たなサービスを作るとしたら、どのようなものが考えられるか?」
④「現場を盛り上げてみんなのモチベーションを高めていくにはどうすればよいか?」
⑤「変化の激しい時代を生き残っていくためには、事務所としてどういう取り組みが必要か?」

 

問いを与えるにあたっては、相手の年次や業務内容を考慮することが必要です。年次の低い人には①の問いから始めて、役職が上がるにつれて⑤のようなより経営に関する問いを与えていくのがよいでしょう。大切なのは、こうした問いについて考え、提案することも「仕事」だという意識を持ってもらうことです。

 

そして、その問いに対して提案しやすい環境を作ることも重要です。その環境を作るうえで不可欠なのが、上司が部下の話をしっかり聴く姿勢を持つことです。

 

部下が一生懸命に考えた意見を上司がまともに聴かなければ、「どうせ上司は取り合ってくれない」と考えるのをやめてしまい、当然、意見も出なくなります。上司は部下よりも知識も経験も豊富なことが多いため、「部下よりも自分のほうが優れているから、部下に意見を求めても意味がない」と、まともに部下の話を聴かない方も少なくありません。

 

しかし現場にいるからこそ出てくる意見やアイデアもあり、「よいアイデア」は出なくても、現場の状況を知るだけでも大きなヒントになります。「ぜひ君の意見を聴かせて欲しい」という関わりが、部下の意識を変えるのです。

 

また、人は、同じ内容でも一方的に命じられたことと、自分が提案して採用されたこととでは取り組む姿勢も大きく異なります。後者の場合はモチベーションも高く責任を持って完遂しようとします。現場の意見の積極的な採用は、部下の積極性や責任感を引き出すうえで高い効果をもたらします。

 

ほとんどの部下が言われたことしかやらない指示待ち人間の状態で、その状態に対して「ほんとにうちの部下は指示待ち人間ばかりで、いちいち全部自分が指示しなければいけない」とぼやいている上司の多くに共通している特徴があります。それは、部下の話をまともに聴かない、部下の意見に共感しないということです。こういった態度が部下を指示待ち人間に変えていきます。

 

藤田耕司
一般社団法人日本経営心理士協会代表理事
FSGマネジメント株式会社代表取締役
FSG税理士事務所代表
公認会計士、税理士、心理カウンセラー

 

 

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経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事

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藤田 耕司

日本能率協会マネジメントセンター

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