「新ツールを導入すると、慣れるまで余計に大変です…」生産性パラドックスにどう対応するか?

「新ツールを導入すると、慣れるまで余計に大変です…」生産性パラドックスにどう対応するか?

いま、弁護士や税理士などの士業は過渡期を迎えようとしています。「AIに仕事が奪われる」との声も……。しかし、士業のすべてなくなるわけではなく、人間にしかできない仕事がまだまだあります。AIやITなどの技術革新が続くなか、士業の仕事に付加価値をつける方法を税理士、公認会計士、心理カウンセラーとして活躍する著者が明らかにします。本連載は藤田耕司著『経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事』(日本能率協会マネジメントセンター)から一部を抜粋し、再編集したものです。

生産性パラドックスの可能性を理解しておく

新ツールの導入時に生まれる「生産性パラドックス」

 

間接的技術的失業に備えるべく、新たなツールを活用して手続き業務を効率化、低コスト化することの必要性についてお伝えしてきました。ただ、新ツールの導入は、物理的にも精神的にも一定の負荷を伴います。

 

「生産性パラドックス」という言葉があります。これは新たな技術の導入に伴う業務フローの変更によって生産性が伸び悩む現象をいいます。新ツールの導入時はこの生産性パラドックスに陥り、一時的に生産性が下がる場合もあります。そうなると「やっぱり元のやり方に戻そう」という心理が働きます。

 

人が感じるストレスの度合いは、事前にその状況を予期していた場合とそうでない場合とで大きく異なるため、生産性パラドックスの可能性を把握しておくことで、ストレスは軽減されます。そこで次のようなメッセージを伝えておくことも効果的です。

 

新ツールの導入は、物理的にも精神的にも一定の負荷がかかるという。(※写真はイメージです/PIXTA)
新ツールの導入は、物理的にも精神的にも一定の負荷がかかるという。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

「新たなツールの導入にあたり、そのツールに慣れるまで一時的に生産性が落ちて、ストレスを覚えるかもしれません。このような現象は『生産性パラドックス』といいますが、その状況を脱すると、現状よりも高い生産性を発揮できるようになりますので、それまで何とか頑張りましょう」

 

事務所の所長は、だれよりもこの点を理解する必要があります。「もう面倒だ!」と堪忍袋の緒が切れれば、決定権があるだけに以前の方法に戻せますが、それでは業務の効率化、低コスト化に向けた取り組みは頓挫してしまいます。

 

一方で、導入したツールが現実の業務内容と合わない場合もあります。非効率が一時的な生産性パラドックスによるものか、それともツールが業務内容に合わないかは慎重に見極めなければなりません。事前にツールの提供業者と打ち合わせを行い、一定期間が経過するまでは効率化の状況をモニタリングしてもらうとよいでしょう。

 

なお、「ツールが業務に合わない」という判断をする際に、気をつける点があります。ツールは今後も進歩します。今は非効率に見えても、今後一気に効率化が進んだ時点で使い慣れていないと、ツールを使いこなした同業者の後塵を拝します。導入/非導入の判断では、そのツールの将来性も慎重に検討しなければなりません。

 

私の会計事務所では、あまり世の中に認知されていない段階からAI学習機能を取り入れたクラウド会計を導入していますが、導入当初は使い方もよくわからず、また処理速度も遅かったので見事に生産性パラドックスに陥りました。しかしクラウド会計は今後もさらに進歩し、使いこなせれば間違いなく大幅な業務の効率化につながり、いずれは会計システムのスタンダードになるだろうと根気強く使い続けました。

 

その結果、今では自動仕訳機能や給与の自動計算機能などで作業効率は格段に上がり、クラウド会計なしの会計業務は考えられなくなったほどです。

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経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事

経営参謀としての士業戦略 AI時代に求められる仕事

藤田 耕司

日本能率協会マネジメントセンター

AIの利用が広がるにつれ、多くの士業が「定型的で単純な手続き業務はAIに取って代わられかねない」と危機感を強めています。 起業して新事業を始めたり、いち早くAIを取り入れたりするなど、業務の見直しに取り組む動きも出始…

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