領収書の整理や仕訳の入力は、付加価値が高くない
従事する業務の内容を見直し、将来の業務に投資する
仕事に対する意識を変えることに加えて、今後に向けた能力の育成も重要になります。自動化されやすい業務に従事する時間を減らし、自動化されにくい業務に従事する時間を増やして、部下がAI時代においても付加価値を発揮できる能力を戦略的に養っていく必要があります。
そのためには、自動化されにくく付加価値の高い業務を優先的に受注し、自動化されやすく付加価値の低い業務の受注は控えるか、受注しても極力効率化する対応が必要です。
私の会計事務所では、領収書の整理や仕訳の入力といった付加価値が高くない業務は基本的にはお請けせずに、お客様の側で対応していただいています。もちろん、ただ「お請けできない」と伝えるのではなく、お客様が効率的に作業できるための仕組み作りをします。こういった仕組み作りのコンサルティングは自動化されにくい付加価値の高い業務です。
目の前の売上を追いかけるのであれば、付加価値が高いかどうかにかかわらず来た業務は受注すればよいと思いますが、私は「将来性」という観点から受注するかどうかを判断しています。
こうして自動化されやすい業務の時間を極力抑える一方で、銀行借入や補助金などの資金調達、節税、経費削減、経理業務の効率化に関する提案や、顧問先の営業につながりそうな交流会や勉強会のご案内、見込み客や提携先を紹介するなどの経営の支援を行います。スタッフは顧問先の経営をよくするための情報にアンテナを張り、必要な能力を身につけてくれています。そのために必要なセミナーの受講や、書籍の購入も、私は奨励、補助しています。
顧問先の社長から弊所の担当スタッフについて「〇×さんからいろんなご提案をいただいて本当に助かっています。〇×さんはうちの参謀役ですから、〇×さんなしではうちの経営は考えられません」といったお声をいただくことがあります。こういったお声は、所長の私としても非常にうれしく思っています。そして、顧問先とのこうした関わりこそが、今後求められる士業のありかただと考えています。
目先の収益も大切だが、将来性がなければ未来はない
もちろん、「目の前の収益を伸ばすことを後回しにしてでも、とにかく将来のことを優先すべきだ」という訳ではありません。いずれは自動化される可能性が高い業務でも、事務所の運営維持のための収益を確保するためには、受注し、従事してもらう必要もあります。ただ、そうした状況でも、将来の部下と組織の成長のために、部下が従事すべき業務はなにか、身につけるべき能力はなにか、という視点は必要です。
「近い将来この商売ではやっていけなくなるのは薄々わかっていました。でも、日々の現場を回すのに精一杯で、会社の将来まで考える余裕がありませんでした」──市場の変化への対応が後手に回り、事業の単価が下がり、いくら働いても利益を出せなくなった結果、会社をたたむことになった経営者からこのような話を聞いたことがあります。
これまで士業は、国の制度もあり一定の需要が確保されていました。しかし、技術の進歩によってその需要が失われるおそれがある今後の時代においては、士業も将来に向けて人材の育成を戦略的に進めていく必要があります。そこで次に、戦略的な人材育成を進めるための組織体制作りについてお伝えしていきます。