「家賃滞納は普通の人が堕ちる破滅への入り口である。」……2500件以上の家賃滞納トラブルを解決してきた、OAG司法書士法人代表の太田垣章子氏。同氏は書籍『家賃滞納という貧困』(ポプラ社)のなかで、その悲惨な実態を明かしている。
国の世話にはなりたくない、子どもにも頼れない
裁判官が、しきりに一郎さんを説得します。生活保護を受給するか、あるいは身内の援助を得るか、そのどちらかでない限り、仕事をしていない一郎さんの生活は成り立ちません。裁判所で会う一郎さんは、もはやとても仕事ができるような健康状態ではありませんでした。それでも一郎さんは、お国の世話にはなりたくないし、子どもにも頼れないと頑なに拒みます。
こうなると裁判所としても、明け渡しの判決を言い渡さざるを得ません。そして強制執行の日が来ました。
夏の暑い日でした。荷物を運びだす準備を整え、執行官がドアの外で声をかけますが、返事はありません。インターホンを鳴らしても無反応です。仕方なく開錠して中に立ち入ると、一郎さんは服を何も身に着けず、酔っぱらって寝ていました。机の上には酒の空き瓶が並び、すぐ横には電話の子機が転がっています。昨夜もどこかに電話をかけてしまったのかもしれません。
執行官に服を着るよう促され、ヨレヨレの服を着た一郎さんは部屋の外に出されました。
「生活保護の申請をしましょう。一緒について行きますから」
その言葉を振り切り、一郎さんはたったひとりで歩いていきます。けれどもその先にはなんのあてもないはずです。
若いころ、生活が苦しいから年金をかけられない、でもその分、年をとっても働けばいい……。そう思っていたのかもしれません。でも人生は残酷です。
ほんの僅かなズレから生じた歪みは、微妙なバランスで成り立っていた家族の関係を崩してしまいました。そして傷ついた、固くなってしまった心は、社会から用意されたセーフティネットまで拒絶してしまったのです。
※本記事で紹介されている事例はすべて、個人が特定されないよう変更を加えており、名前は仮名となっています。
太田垣 章子
OAG司法書士法人代表 司法書士
【12/18(木) 『モンゴル不動産セミナー』開催】
坪単価70万円は東南アジアの半額!! 都心で600万円台から購入可能な新築マンション
OAG司法書士法人代表 司法書士
株式会社OAGライフサポート 代表取締役
30歳で、専業主婦から乳飲み子を抱えて離婚。シングルマザーとして6年にわたる極貧生活を経て、働きながら司法書士試験に合格。
登記以外に家主側の訴訟代理人として、延べ2500件以上の家賃滞納者の明け渡し訴訟手続きを受託してきた賃貸トラブル解決のパイオニア的存在。
トラブル解決の際は、常に現場へ足を運び、訴訟と並行して賃借人に寄り添ってきた。決して力で解決しようとせず滞納者の人生の仕切り直しをサポートするなど、多くの家主の信頼を得るだけでなく滞納者からも慕われる異色の司法書士でもある。
また、12年間「全国賃貸住宅新聞」に連載を持ち、特に「司法書士太田垣章子のチンタイ事件簿」は7年以上にわたって人気のコラムとなった。現在は「健美家」で連載中。
2021年よりYahoo!ニュースのオーサーとして寄稿。さらに、年間60回以上、計700回以上にわたって、家主および不動産管理会社向けに「賃貸トラブル対策」に関する講演も行う。貧困に苦しむ人を含め弱者に対して向ける目は、限りなく優しい。著書に『2000人の大家さんを救った司法書士が教える 賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』『老後に住める家がない!』(どちらもポプラ新書)がある。
著者プロフィール詳細
連載記事一覧
連載GGO大ヒット連載ピックアップ~『家賃滞納という貧困』