案の定、スタッフからは「総スカン」を食らい…
予想通り、ということだろうか。田中さんが発した筆者の提案は、スタッフからは総スカンを食らった。
「無理ですよ、そんなんじゃちゃんとしたカットができないです」
「カウンセリング、っていっても何のイメージも持たずにくる人だっていますからねー」
「もしそれをするのなら、アシスタントの数が足りないと思います。もう1人採用してください」
上がってくるのは「できない」という理由ばかりだ。田中さんが困惑して筆者の方を見る。まあでもこの辺りまでは想定内である。
「でもね、2時間を1時間半にすれば担当するお客様の数が増えるのだからみんなの報酬だって増えるんですよ。少し工夫するだけで、勤務時間は変わらずに計算上3割収入が上がるって、サラリーマンじゃあ考えられないことですよ。悪い話じゃあないでしょ?」
何でもハッキリものを言う佐山さんが口を開いた。
「そりゃたくさん稼ぎたいとは思いますけど、時間が限られると気持ちに余裕がなくなるんですよ、僕たちスタイリストはお客様に満足して帰ってもらいたいんですよ」
「うん、そうだね、でも僕もこの前から見せてもらっていたけど、大体はみなさんお客様1人に対して1時間半くらいで仕上げてますよ。トラブルがあった時のことを心配してるのかもしれないけれど、その時はお互いヘルプし合ってカバーしましょうよ。少しずつみんなで助け合えば、できない話じゃないと思うんですよ」
筆者が食い下がるので佐山さんは少しムッとして低い声で言った。
「じゃあ、社長がやって見せてくださいよ」
田中さんの顔色が少し変わったのを筆者は目の端で捉えた。田中さんも筆者の表情をうかがっている。
「それができるのもスタイリストの腕だと思うんです」
「文句があるなら自分で見本を示せ」
この言葉が出るのを田中さんはずっと心配していたのかもしれない。でもこれも筆者には想定内だ。美容師の技術を持たないよそ者の筆者が美容室を経営するためには、これは避けて通れない対立だ。筆者は穏やかに笑って佐山さんの顔をしっかりと見つめて言った。
「僕はみんなも知ってのとおり美容師じゃないから、自分でカットやカラーをやって見せることはできないんですよ。でもね」筆者はソフトに、少し大きな声で続けた。
「僕はお客としてたくさんの美容室に通ってきたんです。お客様は美容業界の仕組みや美容師の気持ちなんて知らずにやってくるんですよ。美容室で気分を変えたい、綺麗になりたい、と思っているお客様は多いと思いますけど、美容室に長くいたいと思っているお客様は少ないと思いますよ。2時間、いや1時間半でもお客様にとっては長いんですよ。5分でも早く施術が済めばその方がお客様は喜びますよ。
お客様1人当たりの施術の時間が短くなれば、それはまたひとつCIELの強みになるんです。だからやり方を工夫してもらいたいんです。新しいやり方を見つけなきゃいけない、やり方を変えなきゃいけない、それが大変なのはわかります。僕にはカットどころかシャンプーだってできないけれど、レジ打ちでも掃除でも、手伝えることは何でもやりますから。だからみんな、チャレンジしてみてくれませんか⁉
お客様への施術をチャチャっと業務的に済ませろというんじゃなくて、1時間半で最高の接客サービスを提供してほしいんです。それができるのもスタイリストの腕だと思うんですよ」
このあたりの説得力は株の講演会で覚えた聴衆を惹きつけるパフォーマンスが役に立ったのだろうか。スタッフはみんな少し物言いたげではあったが、お客様1人当たりの施術時間を1時間半に設定することに同意してくれた。
山下 拓馬
OXY株式会社 代表取締役
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