物事を知りたいという「気持ち」、ストーリーを思い浮かべる「意識」、何かをしようという「決定」――。『意思決定のトリック ―身近な体験に基づいた人間理解―』(久永公紀著)では、感情や意思が起こる仕組みについて解説しています。

「生命維持に最低限必要な範囲」を超えると…

■世界像の拡大

 

ところで、パターンの編み込みは、どんな物事から始まるか。

 

まずは、生命維持に関わることだ。

 

生まれると、母親や周囲の人とのやりとりの中で、まず食べることに関連した動作(例:肯定・否定の表現、満足・不満足の表現、掴んで口に入れる手や口の動き)、言葉(例:おっぱい、まんま、お腹空いた、美味しい)、ルール(例:これを噛んではいけない)が、相互に関連付けられながら、また、快不快のラベルと共に編み込まれる。

 

そして、生存に必要な諸々の物事を編み込みながら、徐々に世界を広げて行く。また、世界を広げて行く過程で、自分と周囲の人とは、ルールを指示する・ルールを守らされるという違いがあること、身体が共通でないこと、呼ばれ方(名前)が違うことなどから、自我他我(私とあなた)の区別も成立する。

 

これらは人間に普遍的なことなので、私とあなたは一体では無いとか、お腹が減った・美味しいがどういう状態なのか、ということについては世界共通で話が通じる。

 

しかしながら、生命維持に最低限必要な範囲を超えると、世界像は人によってかなり違うものになる。例えば、幽霊。周囲の人が幽霊の実在を信じている場合、その人の世界には幽霊がいるかもしれない。

 

一方、周囲の人が幽霊を全く信じず、テレビや本に出てくる幽霊は作り物だとして接してきている場合、その人にとって幽霊は単なる創作キャラクターである[図3]。

 

[図3]世界像の違い
[図3]世界像の違い

 

墓地は、幽霊を信じない人にとって感覚的には公園と大差無いが、信じる人にとっては畏怖を覚える場所だろう。なお、夢が現実(日常の世界像)ではないとわかるのは、編み込まれたパターンから逸脱しているから。

 

だから、現実に近いよく出来た夢の記憶は、現実と区別がつかなくなることもありうる。さらに、同じ夢を何回も見て記憶している場合、現実との境界は曖昧になるだろう。

 

子供の頃、数メートル程度低くスゥ~と飛べるような夢をよく見た。何となくちょっとは飛べるような気がしていた。また、自分が昨日までの自分と同じ自分だ(誰かと入れ替わっていない)とわかるのは、過去編み込まれたパターンが、継続して更新・利用できるから。

 

もし、朝起きて鏡を見て、知らない人がこっちを向いていたら、ひどく混乱する。言うまでも無いが、言語を使うことで、言語に対応した物事が世界像に組み込まれる。責任とか公平といった概念も世界像に加わる。

 

主語述語がありストーリーを紡ぐことのできる言語によって、世界像は画期的に広がる。ある言葉のまわりで編み込まれてきた物事は、人によって違う。

 

なので、同じ言葉(例えば、幽霊)でも、その持つ意味・感じは、人により様々。全く意図していないのに、相手が傷ついたり、逆に喜んだり、コミュニケーションには多かれ少なかれ誤解が付きものだ。

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久永 公紀
1960年 東京都生まれ。
1984年 慶応義塾大学大学院工学研究科修士課程修了。現・KDDI(株)入社。
2020年3月 同社を定年退職。

 

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本記事は幻冬舎ゴールドライフオンラインの連載の書籍『意思決定のトリック ―身近な体験に基づいた人間理解―』より一部を抜粋したものです。最新の税制・法令等には対応していない場合がございますので、あらかじめご了承ください。

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